わたしが山形県立中央病院の研修医だったある日、外来の妊婦健診で妊娠34週胎児死亡とのことで、妊婦さんが病棟に入院となりました。夕方に大量の羊水とともに小さな児が娩出されました。巨頭、短軀で、何よりギョッとしたのは四肢が極端に短く、むかしのアニメの「オバQ」の手足にそっくりなことでした。
当時の新生児科の渡辺真史先生が、「これはとても重症な病気で、普通は胎児性軟骨異栄養症と言うんだが、正確には様々な病気がまじっているらしい。だから出生時にきちんと全身のX線写真を撮って残しておくと、いずれ正確な診断が可能となるかもしれない。正確な診断はこれからの妊娠・出産のためにも必要だ」と、あれから35年経った今振り返っても非常に適切な指導をしてくださいました。
骨系統疾患についてはその頃病気としてまだよくわかっていませんでした。当時の国際分類(1983年)では163疾患が挙げられていて、そのときですら途方もない数と思いましたが、最新の分類(2019年)ではそれが461疾患まで増えて、病態の解明もだいぶ進んできています。
このことがきっかけで胎児骨系統疾患を経験するたびにX線写真と病歴記録を手元にも残すようになり、それが30数例たまった2007年に、骨系統疾患の専門家で世界的にも有名な西村玄先生(当時都立小児医療センター)を訪問いたしました。紹介もなくアポをとって会いに行ったわたしにも親切に対応して頂き、一つひとつの症例をていねいにみてくださいました。それまで10年、20年とまったく見当もつかなかった多くの症例が、西村先生の手にかかるとまさに快刀乱麻を断つごとく診断がつけられていく様に、わたしはただただ感嘆する思いでした。
1987年の写真のケースもachondrogenesis type 1Bというめずらしい疾患であることがわかりました。その後わたしたちは「胎児骨系統疾患フォーラム」というネットワークを立ちあげ、今も西村先生の教えを受けながら、全国のケースのコンサルテーションを受けています。渡辺先生と西村先生の2人の泰斗にすばらしい世界に導かれた思いです。