わが国では救急医療体制の進歩によって外傷による死者数は減少しつつあります。
外傷患者の情報については日本外傷データバンクに蓄積され、様々な分析が行われています。これは、日本外傷学会と日本救急医学会が中心となって2003年に登録が開始されたもので、重症外傷患者に関して病院で収集された情報が含まれています。この情報を用いた研究によると、搬送された外傷患者の死亡率が2009年は13.7%でしたが、2018年には9.1%に低下していました。
また、別の研究でも、交通外傷患者の死亡率が、この10年で低下したとのことです。この背景には、病院前救護体制の標準化、ドクターヘリの普及などが挙げられますが、早期に適切な診断が行われたことにもよります。
CT撮影は広く一般的に行われる検査であり、小児に対しても日常的に行われています。中高所得国で実施されたCT総実施件数の約8%は小児に対して行われているそうです。わが国はCT普及率が高く、全世界で稼働しているCTの約1/3が日本にあると言われています。ちなみに2010年のデータですが、日本で毎年行われる全CTスキャンの約3%が小児に対して行われていたそうです。
さて、外傷患者では、しばしば全身CT撮影が行われて損傷部位を明らかにします。外傷データバンクのデータを用いて、小児の外傷患者を対象に、全身CT撮影が行われた群と、限られた部位のみのCT撮影が行われた群に大別し、死亡率が比較されました。その結果、両方の群で死亡率に有意な差はありませんでした。
小児では放射線感受性が高いので、被ばく量をできるだけ少なくすることが求められます。この論文のように、不必要なCT検査は控えたほうがいいと言われています。
小児に限らず、放射線検査による被ばく量を少なくするために、合理的に達成できる限り低く保つ(as low as reasonably achievable:ALARAの原則)ことが求められています。
わが国では2005年に関連学会から、小児のCTガイドラインが出されています。CT撮影は診断のために重要であり、その有用性は疑う余地がありません。しかし、小児は放射線に対する感受性が成人の数倍高いこと、小児は体格が小さいため、成人と同様の撮影条件では臓器当たりの被ばく量が2~5倍になることを鑑みて、検査を依頼する医師は適応を厳密に検討すること、その必要性を児や家族に十分説明すること、などが記されています。
近年は腹腔内臓器損傷による出血などを迅速に調べる方法として、超音波による迅速簡易検査法(focused assessment with sonography for trauma:FAST)が普及しています。これで、多少は小児への腹部CT撮影を減らすことができそうです。また、3歳以上で血圧が正常、胸部単純X線検査で異常なく、ヘマトクリット値が30%を超え、GCS(Glasgow Coma Scale)が9以上であればCT検査は必ずしも必要ないとの報告もあります。もちろん、CT撮影の有無は現場での判断に拠りますので、一概には決められないと思います。ただし、小児においては慎重に検討するのがよいかもしれません。