【概要】安倍晋三首相は16日、保険外併用療養の拡大に向け議論の加速化を関係閣僚に指示した。一方、拡充策として規制改革会議が提案する「選択療養」には強い反発が出ている。
16日に開かれた政府の経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会合では、増田寬也元総務相が成長戦略に盛り込むべき保険外併用療養の拡充策として、①有識者からなる第三者機関を設け、国内未承認の医薬品の審査を迅速化する、②費用対効果の低い医薬品・医療技術を既存の評価療養に組み入れ、現行制度の枠内で保険外併用が継続できるようにする─などの仕組みづくりを提言した。これに関し田村憲久厚生労働相は、すでに同様の検討を厚労省内で始めていると応じ、国内未承認の抗癌剤等の審査期間を現状の半減程度に短縮する考えを明らかにした。
これを踏まえ安倍首相は「困難な病気を抱える患者のニーズに応える制度が必要」として、保険外併用療養の拡大に向け、議論の加速化と政府内の意見調整を関係閣僚に指示した。成長戦略の改訂版を策定する6月までに意見集約を図る方針だ。
●保険外併用の条件提示後も続く反発
一方で政府の規制改革会議は、医師と患者が合意した個別の治療ごとに保険外併用を認める「選択療養(仮称)」の創設を提言している。同会議は新制度のメリットとして「国内未承認の医薬品・医療技術の審査の迅速化」「医師の裁量権拡大」などを挙げる。保険収載を前提としないが「広く使用される実績」に応じて、評価療養に切り換える可能性もあるとしている。
しかし、これに対し国内最大の患者団体である日本難病・疾病団体協議会は「事実上の混合診療解禁となる」「患者にとって対等なインフォームドコンセントがどの程度担保できるのか疑問」などと問題視。保険者3団体(健保連、国保中央会、協会けんぽ)も制度の構想に異議を唱えている。
これを受け同会議は16日の会合で、保険外併用を認める条件として、①国際的なガイドラインへの記載や査読論文のない治療を除外する、②治療選択への合意は書面で行い中立的な専門家の審査を受ける、③医師が患者に対し有効性・安全性についてエビデンスに基づき説明する─などを提示した。それでもなお根強い反発があり、17日には日本医師会の横倉義武会長が緊急会見を開き、「拙速な保険外併用療養の拡大は到底容認できない」と表明。18日の自民党内の会合でも批判的な意見が相次いだ。
今後の検討の方向性について、田村厚労相は18日の閣議後会見で「安全性と有効性の担保は絶対外せない」としながらも、規制改革会議との協議には前向きな姿勢を示した。
【記者の眼】「選択療養(仮称)」は個別の治療ごとに安全性・有効性の担保を必要とする。国内未承認の治療に関する医師と患者の情報格差を埋められるか疑問視する声も多い。保険外併用療養の拡充は、現行制度の枠内で対応すべきとする産業競争力会議や厚労省の案を軸に進みそうだ。(F)