在宅医療の対象者の多くは,治療では治らない病態(障がい・疾病)を持ち,生命が脅かされている人々であり,特に超高齢者においては「自然経過としての死」を迎える人々である。これまでの医療では,できる限り生命を維持することや身体的苦痛を除去することに焦点が当てられていた。しかし,在宅医療では,そのような病態を持つ利用者および家族が,自分らしい生活(暮らし)および人生(生き方)が継続できるよう支援し,その環境を整えることに焦点を当てる。支援には医療的な治療やケアも含まれるが,最も意識すべきことが生きがい支援である。
QOLの概念の理解で共有したいことは,①QOLのL(life)には生命・生活・人生の3つの要素があり,いずれも重視すべき要素であるが,在宅医療では生活の質および人生の質に,より重点が置かれること,②利用者にとってのQOLであること,の2点である。
生命・生活・人生のどの要素を重視するのかは,利用者の置かれている状況によっても変わってくる。一般的には,治る可能性のある病態では,生命>生活>人生,治らない病態では生命<生活・人生,そして人生の最終段階では,生命<生活<人生となるものと思われる。
治らない病態および人生の最終段階での「生命の質」とは,身体的苦痛(痛み等の身体症状)および精神的苦痛(不安,不眠等)がないことであり,「生活の質」とは,自分らしい暮らしが継続できること,「人生の質」とは,自分らしい生き方ができること,その中には自立および自律が保たれること等の人間としての尊厳が守られること,そして,生きがいを持って生きられることである。
「生きがい」とは,意識的に,あるいは無意識に誰もが持っている価値観,感情,情念であり,人生をポジティブに生きるための原動力である。しかし,人生の危機的状況,特に治らない病態にあるときや人生の最終段階では,見失うあるいは失われることが多い。この生きがいを取り戻し,あるいは新たに探し出し,自分の人生を継続し人生の最終章を完結する,また,その人生を家族等につなぐことが生きがい支援である。
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