本来、接種が推奨されている期間に、適切な接種回数を完了できなかったワクチンを後から改めて接種することを、キャッチアップ接種と呼ぶ。たとえば、わが国においては、ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)ワクチンの積極的接種勧奨中止の影響により接種機会を逃した、1997(平成9)年度〜2005(平成17)年度生まれで合計3回の接種が完了していない女性を対象として、2022年4月〜25年3月までの3年間に限りキャッチアップ接種が無料で継続されている。同様の公費によるキャッチアップ接種は、一部の成人男性を対象とした風疹第5期接種においても行われている。
わが国では、キャッチアップ接種が必要とされているワクチンはむしろ有料であることが多い。たとえば、水痘ワクチンは14年10月に1〜3歳未満を接種対象として定期接種化されたが、それ以前に出生し、定期接種として水痘ワクチンを接種する機会が与えられなかった子どもたちを対象とした公費によるキャッチアップ接種は、15年3月までの間、当時3〜5歳未満であった子どもたちを対象に行われたのみである。その結果、水痘ワクチン接種歴がある幼児における水痘患者は減少したが、むしろ国内水痘患者の中心は水痘ワクチン接種歴がない学童期以降の小児が多くを占めるに至った1)。今日においても明確な水痘感染歴がなく、2回の水痘ワクチン接種が完了していない場合は、有料任意接種ではあるがキャッチアップ接種の対象となる。
同様の状況は、16年10月から1歳未満を対象として定期接種が開始されたB型肝炎ワクチンでも認めており、16年以前に出生した人におけるB型肝炎抗体陽性率は明らかに低い2)。B型肝炎は主に体液を介して容易に感染するため、接種歴のない人に対するキャッチアップ接種は重要である。
そのほか、外来診療の際に母子手帳を拝見すると、定期接種に分類されているワクチンであっても、接種漏れの状態となっている子どもたちにしばしば遭遇する。
無料でキャッチアップ接種機会が提供されているHPVワクチンや風疹ワクチンであってもその接種率は低迷しており、水痘、B型肝炎など、有料任意接種ワクチンのキャッチアップ接種はさらに低いと推定される。キャッチアップ接種は、その適応判断やスケジュールの再設定に専門的な知識を要することから、保護者だけでは適切な対応が困難であり、さらに、多くの場合は有料任意接種となることから、かかりつけ医からの丁寧な説明がなされない限り放置される可能性が高い。キャッチアップ接種の適応があるワクチンが存在することを対象者本人および保護者に適切に伝えることは、我々医療従事者の責務であると考えている。
【文献】
1)国立感染症研究所:水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化〜感染症発生動向調査より・2021年第26週時点〜. 2022.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/varicella-m/varicella-idwrs/10892-varicella-20220113.html
2)国立感染症研究所:年齢群別のB型肝炎ウイルス抗体保有状況の年度比較, 2020〜2022年. 2022.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/11954-hepb-yosoku-year2022.html
勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[定期接種][有料任意接種]