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【識者の眼】「医師法21条の届出義務は『異状死』ではなく『異状死体』である」小田原良治

No.5179 (2023年07月29日発行) P.66

小田原良治 (日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)

登録日: 2023-07-12

最終更新日: 2023-07-12

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医師法21条(異状死体等の届出義務)については、医療者や法律家の種々の解説があり、どれを参考にすべきか迷われる方もあるであろう。参考にすべきか否かの、最もわかりやすい基準は『異状死』と書いてあるか『異状死体』と書いてあるかである。医師法21条の条文は「医師は、死体……を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」となっており、『異状死体』等の届出義務である。

日本法医学会『異状死ガイドライン』1)は、臓器移植のために出された見解であり、「病気になり診療をうけつつ、診断されているその病気で死亡することが『ふつうの死』であり、これ以外は『異状死』と考えられる」とした。これは、人間の死について『ふつうの死』か否かを論議したものであり、死体の「異状な状態」即ち『異状死体』について論じたものではない。医師法21条が混乱をきたした原因は、一学会の『ふつうの死』と『異状死』の定義を厚生労働省が不用意に死亡診断書記入マニュアル2)に引用し、毎年継承してきたことである。間違いに気づいた厚労省は、「平成27年度版 死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」から「日本法医学会『異状死ガイドライン』参考」の部分を削除した。また、2019(平成31)年3月13日衆議院厚生労働委員会で、橋本岳議員の質問に対して、吉田学医政局長が『異状死ガイドライン』は日本法医学会という一学会の見解であると明言している。「厚生労働省は診療関連死について届け出るべきと言ったことはない」という立場は、ずっと変わっていない。さらに厚労省は、平成31年4月24日付厚労省医政局医事課事務連絡(Q&A)3)において、改めて医師法21条の解釈を明確に示した。

『医事法判例百選 第3版』4)においても、最高裁2004(平成16)年4月13日第三小法廷判決をふまえて、医師法21条の届出義務は「死体の外表を検査し、異状があると医師が判断した場合」としている。

『死』(Death)と『死体』(Dead Body)は別物である。医師法21条は「外表を検査して、『異状』な状態を認めた『死体』」の届出義務であり、まさに『異状死体』の届出義務である。医師法21条を『異状死』の届出義務とした論考は注意深く読む必要があろう。決して盲信してはならない。

【文献】

1)日本法医学会:日法医誌. 1994;48(5):357-8.

2)厚生統計協会:死亡診断書・出生証明書・死産証書記入マニュアル 平成7年版. 厚生労働統計協会, 1995, p25-6.

3)小田原良治:死体検案と届出義務─医師法第21条問題のすべて─. 幻冬舎, 2020, p218-22.

4)小島崇宏:異状死体の届出義務. 医事法判例百選. 第3版. 甲斐克則, 他, 編. 有斐閣, 2022, p6-7.

小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[異状死ガイドライン][死亡診断書記入マニュアル]

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