筆者は,福岡市で在宅医療を中心としたクリニックを運営している精神科医です。日常臨床を行う中で在宅医療における精神科医の役割が大きいと感じており,積極的に情報発信を行っています1)。また,医療業界におけるテクノロジーの活用に関心があり,オンライン診療も初期の段階から導入していました2)。今回,ChatGPTを用いて論文検索と要約を自動化する仕組みを考えたところ,大変大きな反響を頂きました。
筆者は,医療者向けのプログラミングスクール〔ものづくり医療センター(もいせん)〕を受講し,半年ほど学びました。その後は,テクノロジーを活用して認知症フレンドリーなまちづくりを加速させることを目的として,認知症フレンドリーテックというコミュニティ(https://efc.fukuoka.jp/award2022/archives/recipient/1004)を作って活動を行っています。このような背景から,ChatGPTが公開された初期の段階(2022年12月頃)から利用していました。
その後,ChatGPTのAPIが公開されたこともあり,様々な活用について話題となる中,参加していたプログラミング関連のコミュニティでChatGPTを活用したハッカソンが開催されることになりました。ハッカソンとは,新しいプロダクトやソリューションを構築するためにエンジニアやプログラマらが集まり,定められた期間に行われる共同イベントのことで,ハックとマラソンという言葉の合成語です。このハッカソンは,「春」をテーマにChatGPTを用いたプロダクトを作り,記事を書くという企画でした。
筆者は,ChatGPTとLINE Botを組み合わせたプロダクト開発に取り組もうと考えました。ChatGPTに企画を依頼し,様々な質問ややり取りを経て,子どもが楽しく漢字を学べる学習アプリの開発に着手しました。しかし,ChatGPTが作成する漢字の設問は不正確であることが判明しました。ChatGPTが抱える問題点については様々なものがありますが,そのときは「それらしい文章を書くことができるものの,必ずしも正確な内容とは限らない」点が大きな課題でした。また,ChatGPTが架空の論文を引用することも問題となっていました。そこで,ハッカソンの元ネタを一から考え直すことにし,ChatGPTが得意な,「自動化,翻訳,要約」に着目しました。PubMed検索を行わせることで架空の論文を引用する問題を回避し,さらに論文の翻訳と要約をChatGPTに自動化させるという仕組みの発想に至りました。このアイデアに基づき,2023年3月20日に筆者は「主要な医学ジャーナル(英文)から認知症に関する論文が出たら,自動で拾ってきて要約して教えてくれる仕組みを構築したい」とツイートし,開発の最初の一歩を踏み出しました。
前述のツイートは,「こんなものを作ろうと思っている」という宣言のつもりでしたが,翌日,フォロワーである@ninizivさんから「確かに便利そうだなって思ったので,勝手ながら試しに自分風に(コードを)書いてみました!」というリプライがありました。そのときの驚きと感動は大きかったのですが,同時に悪意のあるコードが含まれていないか,不安も感じました。その後,彼が元Yahooのエンジニアであり,現在はオンライン診療関連のベンチャーを立ち上げようとしていることがわかりました。また,検証の結果,彼が提供してくれたコードは適切であり,筆者がツイートした内容を実装したものであることが確認できました。
もともとはハッカソンに参加するために筆者が考えたアイデアでしたが,他人が作ったコードで参加するわけにはいかないと考えました。実際に使ってみたこの仕組みは非常に有用で,筆者と同様に「使ってみたい」と思う医師がたくさんいるだろうと想像した一方で,Google Apps Script(GAS)を用いるこの仕組みを医師が自分で実装するには複数のハードルがありそうだと考え,具体的な作り方をAntaa Slide(医師・医学生向けのスライド共有サイト)にまとめて公開することにしました。そして,3月26日にそのAntaa Slideを作成しツイートしたところ,自分でも驚く勢いで拡散していったというのが,今回の経緯です。
基本的な作り方は,3月21日の@ninizivさんのツイートにあります。ただし,GASの使い方を理解していないと,この通りに作成することは難しいため,筆者が詳しい作り方をまとめたものがAntaa Slideです。ここでは,その手順を簡単に紹介します。
はじめに,ChatGPTを利用するためにアカウントを登録します。次に,OpenAIのAPI keyを取得します。APIとはapplication programming interfaceの略で,ソフトウェアが外部とやりとりする窓口のことです。APIを公開することによって,外部アプリと連携できるようになります。API keyによって個別認証され,APIが利用可能になります。セキュリティ上,一度発行したAPI keyは確認することができません。また,API keyをネット上に公開したり他人に教えたりすると,他人がAPIを利用できてしまいますので,併せて注意が必要です。
なお,このOpenAIのAPI利用は有料です(2023年5月末時点で,1000トークン当たり0.002米ドルの重量課金制)。本法を用いて1本の論文を検索し要約するには,1000~1500トークンが必要です。仮に,毎日5件の論文を送る設定にすると,月に約50円がかかる計算となります。OpenAIの説明では,「利用後3カ月もしくは18米ドルまでは無料枠がある」ということになっていますが,「無料枠はもっと低かった」,「3カ月経たずに無料枠が切れた」というユーザーもおり,詳細が不明です。
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