在宅医療を受けている療養者を含め,すべての慢性疾患を抱えている患者はいずれその状態が悪化する。その中には予測不可能なものがある一方で,予測可能・回避可能なものも多く存在する。また,状態が悪化し,救急搬送を余儀なくされる場合でも,在宅医療従事者はスムーズな病診連携を心がける必要がある。さらに,患者が救急搬送後に入院となった場合でも,住み慣れた場所で少しでも多くの時間を過ごしてもらえるよう尽力する必要がある。本稿ではこれらをふまえ「救急搬送の予防」「救急搬送時の対応」「救急搬送後の対応」の3つにわけてその注意点について概説する。
救急搬送を予防するには,①慢性進行性疾患がどのように進行していくかを予測すること,②どのような急性疾患に罹患しうるかを予測・予防すること,③慢性進行性疾患の増悪時および急性疾患罹患時に早期発見・早期対応を行うこと,が鍵になる。これらに関して特にambulatory care sensitive conditions(ACSCs)という概念が重要である。
ACSCsとは「適切な介入により入院を防ぐことのできる状態」を指す。ACSCsは(a)増悪する可能性のある慢性疾患,(b)早期介入にて重症化を防ぐことのできる急性疾患, (c)予防接種などの処置で(重症化)予防可能な疾患,に大別することができ,それぞれの分類に応じた対策が必要である(表)。
悪性腫瘍だけでなく,慢性閉塞性肺疾患,心不全などの非がん疾患においても,在宅療養者がどのような経過をたどっていくのかを予測し,必要に応じて療養者およびその家族に情報提供する。その一環として,advance care planning(ACP)を患者の状態が悪化する前に実施することが望まれる。特に救急搬送に関して言えば,「どのような状態になったら入院が必要か」あるいは「このような状態でも自宅での療養継続が可能である」といった具体的な情報提供を行った上で,療養場所に関するadvance directive(AD)を確認することも有用であろう(ACP/ADの実施タイミング・その有効性などについてはcontroversialであり,詳細は別稿に譲る)。
急性疾患では,疾患に罹患しないように対策を行う一次予防と,疾患の早期発見・早期治療を行う二次予防にわけて考えるのがよい。
一次予防の例としては「リンパ浮腫患者に対する圧迫療法やスキンケアなどによって蜂窩織炎の発症を予防する」「誤嚥性肺炎の予防のために歯科の介入を依頼し口腔内衛生環境を保つ」「COVID-19の罹患および重症化予防のために予防接種を行う」などである。多くの療養者は一次予防の有益性や罹患時の脅威を十分に把握できていない可能性があり,医療者は健康信念モデル(ヘルスビリーフモデル)に基づき,ていねいな説明を心がけ,意思決定支援を行う。また,二次予防の例としては「蜂窩織炎の徴候をあらかじめ本人や介護者に伝えておき,症状出現時に早期に介入する」「COVID-19を早期発見し,早期に抗ウイルス薬を投与する」などが挙げられる。
それぞれの基礎疾患や周囲の環境によって生じやすい疾患は異なるが,医師はその疾患を予測し,患者(療養者)には初期症状を説明した上で,発症した際は連絡するよう指示し,連絡を受けた場合は医療者が速やかに対応にあたることが望まれる。
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