感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)は,何らかの原因で菌血症が生じ,細菌が弁尖などの心内膜に付着・増殖し疣腫を形成することによって成立する。細菌が心内構造物を破壊したり,脳梗塞などの塞栓症を生じたりする命に関わる重症感染症である。
一般住民におけるIEの頻度は低い。しかし,高リスク患者(後述)では一般住民の10~100倍,IEの発症率が高く,鑑別診断の上位に挙げるべきである。
弁機能不全による心不全症状や,原因不明の多発性脳梗塞として発症することがある一方,微熱や倦怠感のみのこともある。原因不明の発熱や炎症反応上昇が続き,肺炎や尿路感染症などの局所的な症状のない場合には,IEを念頭に置く必要がある。IEと化膿性脊椎炎が合併する場合もあり,腰痛を伴う発熱も要注意である。
全例で認められるわけではないが,眼球結膜の出血,爪部の線状出血,有痛性のOsler結節や無痛性のJaneway発疹などを認めた場合には,IEが強く疑われる。こうした状況のときに血液培養を最低2セット,できれば3セット採取しておくこと,また,経胸壁心エコーを実施することが診断につながる。血液培養採取前の安易な抗菌薬の投与は,起炎菌の同定を困難にする。血液培養の採取が困難な診療状況の場合は,抗菌薬を投与せずに高度医療機関に紹介することも考慮する。
IEでは,神経学的に無症状であっても頭部MRIで中枢神経合併症が検出され,治療方針が変わることがある。IEが疑われる患者においては,神経学的に症状がなくてもできるだけ早く頭部MRIを撮影することが求められる。
IEは重症感染症であり,入院し抗菌薬を点滴静注する必要がある。適切な抗菌薬投与が行われれば,塞栓症のリスクは速やかに減少する。一方,血液培養が陽性となり抗菌薬感受性が判明するまで通常は数日を要するため,臨床背景を考慮しながら経験的に抗菌薬を選択する必要がある。原因菌とその感受性が判明したら速やかに標的治療に変更する。本稿では経験的投与について記載する。標的治療については,ガイドラインを参照にするか感染症専門医に相談してほしい。バンコマイシン,ゲンタマイシンは薬剤師と連携して治療薬物モニタリングを行う必要がある。抗菌薬の投与期間は4~6週間にわたる。治療期間の起点は血液培養が陽性になった日とし,血液培養は陰性になるまで繰り返す。陰性にならなければ抗菌薬に対して抵抗性と考えられる。
IEの治療中は常に手術適応を念頭に置く必要がある。心不全症状のある場合,抗菌薬に対して抵抗性の場合,適切な抗菌薬投与を行っても塞栓症を繰り返す場合,などは速やかに手術を検討する必要がある。心臓血管外科医との連携が必要である。
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