株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

感染性心内膜炎[私の治療]

No.5184 (2023年09月02日発行) P.38

大原貴裕 (東北医科薬科大学老年・地域医療学教室准教授)

登録日: 2023-09-04

最終更新日: 2023-08-29

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)は,何らかの原因で菌血症が生じ,細菌が弁尖などの心内膜に付着・増殖し疣腫を形成することによって成立する。細菌が心内構造物を破壊したり,脳梗塞などの塞栓症を生じたりする命に関わる重症感染症である。

    ▶診断のポイント

    一般住民におけるIEの頻度は低い。しかし,高リスク患者(後述)では一般住民の10~100倍,IEの発症率が高く,鑑別診断の上位に挙げるべきである。

    弁機能不全による心不全症状や,原因不明の多発性脳梗塞として発症することがある一方,微熱や倦怠感のみのこともある。原因不明の発熱や炎症反応上昇が続き,肺炎や尿路感染症などの局所的な症状のない場合には,IEを念頭に置く必要がある。IEと化膿性脊椎炎が合併する場合もあり,腰痛を伴う発熱も要注意である。

    全例で認められるわけではないが,眼球結膜の出血,爪部の線状出血,有痛性のOsler結節や無痛性のJaneway発疹などを認めた場合には,IEが強く疑われる。こうした状況のときに血液培養を最低2セット,できれば3セット採取しておくこと,また,経胸壁心エコーを実施することが診断につながる。血液培養採取前の安易な抗菌薬の投与は,起炎菌の同定を困難にする。血液培養の採取が困難な診療状況の場合は,抗菌薬を投与せずに高度医療機関に紹介することも考慮する。

    IEでは,神経学的に無症状であっても頭部MRIで中枢神経合併症が検出され,治療方針が変わることがある。IEが疑われる患者においては,神経学的に症状がなくてもできるだけ早く頭部MRIを撮影することが求められる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    IEは重症感染症であり,入院し抗菌薬を点滴静注する必要がある。適切な抗菌薬投与が行われれば,塞栓症のリスクは速やかに減少する。一方,血液培養が陽性となり抗菌薬感受性が判明するまで通常は数日を要するため,臨床背景を考慮しながら経験的に抗菌薬を選択する必要がある。原因菌とその感受性が判明したら速やかに標的治療に変更する。本稿では経験的投与について記載する。標的治療については,ガイドラインを参照にするか感染症専門医に相談してほしい。バンコマイシン,ゲンタマイシンは薬剤師と連携して治療薬物モニタリングを行う必要がある。抗菌薬の投与期間は4~6週間にわたる。治療期間の起点は血液培養が陽性になった日とし,血液培養は陰性になるまで繰り返す。陰性にならなければ抗菌薬に対して抵抗性と考えられる。

    IEの治療中は常に手術適応を念頭に置く必要がある。心不全症状のある場合,抗菌薬に対して抵抗性の場合,適切な抗菌薬投与を行っても塞栓症を繰り返す場合,などは速やかに手術を検討する必要がある。心臓血管外科医との連携が必要である。

    残り1,369文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    公立小浜温泉病院

    勤務形態: 常勤
    募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
    勤務地: 長崎県雲仙市

    公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
    現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
    2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
    6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

    当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
    2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
    又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

    ●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
    今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

    もっと見る

    関連物件情報

    もっと見る

    page top