連日、都市部を中心に救急車の搬送困難事案が出ており、東京では119にかけてもすぐにはつながらない状況になっているようである。何か新しいことが起こればNEWSになるが、連日同じような状況であればNEWSではなくなってしまい、報道されることも少なくなり、救急車を呼ぼうと思って初めてこの事実に気がつくという状況となっている。
8月の東京は毎日が気温30度以上の真夏日となり、お盆をすぎても熱中症の搬送も多く、救急医療体制の逼迫に影響していた部分はあるかもしれないが、やはり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が多大な影響を及ぼしている。
総務省消防庁は各消防本部からの救急搬送困難事案を調査している(医療機関への受け入れ照会回数4回以上、かつ現場滞在時間30分以上の事案を救急搬送困難事案とする)。全消防局が対象となっている調査ではなく、各都道府県の代表的な消防局のみを対象とした調査だが、8月21〜27日までに全国で5356件の救急搬送困難事案があり、そのうちCOVID-19疑い事案は1833件となっている。
病院としてはCOVID-19確定例もしくは疑い例を、無防備に、かつ他の患者への影響を考えずに受け入れるわけにはいかず、余分に場所と人を用意する必要が出てくる。入院病床の調整も必要になるが、平時の医療をフルに行っている現状では、COVID-19診療をする余力はなく、どうしても搬送困難に陥ってしまう。さらに、保健行政による直接の入院病床の確保や調整もなくなり、すべての負荷が消防と救急にかかってしまっている。5類になり、恐れていた事態がその通りに訪れているのである。
これまで院内で対応するスペースがなくなった場合、救急車に乗ったまま院外で待機してもらったり、救急車内で診療したりといった苦肉の策も講じてきた。救急車を拘束することになるのであまりよろしくないが、行き先がないよりマシといった状況である。搬送先の選定に時間がかかり、遠方に搬送したり、待機することとなったりといったことが重なり、救急車が出払ってしまうことにもつながるのである。
119に電話がつながりにくい、つながっても救急車が来るまでに時間がかかる、救急車が来ても搬送先が決まらないという、社会的インフラとしての機能が維持できなくなりつつある状況に、もっと向き合ったほうがよいのではないか。
マスコミ程の力は持っていないが、何度でも伝えたい。感染対策は感染者が多いときほど効果的である。救急が逼迫するほどの影響を持ち始めたなら、感染対策を今一度しっかり講じるべきである。政府を見ていると、コロナ禍が終わったかのような雰囲気作りに一生懸命のようであるが、改めて対策をするなら今である。
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[新型コロナウイルス感染症]