猛暑の中で、子どもが施設の送迎バスや自家用車内に置き去りにされて死亡するという悲しいニュースを目にします。確認を怠った、短時間だから大丈夫と思った、などの理由がありますが、車内の温度が急速に上昇して熱中症で死亡します。
熱中症とは、暑熱の影響で体温調節機能をはじめとした、様々な機能が障害されることです。米国では、毎年平均して37人の子どもが車内に置き去りにされることで命を落としているようです。車室内の環境がいかに危険な状態になるかという認識が、一般に周知されていないことが原因のひとつと思います。
たとえば、右側から光が差していると、体の右側だけ暑く感じます。同じ人でも、直射日光を受けた側の体表温度は受けていない側に比べて5℃上昇していると言われています。快適な気候と言われている春や秋でも、日光の影響で車室内温度が上昇することは、様々な実験で明らかにされました。
昼間の最高気温が23℃の春先に、運転者の顔付近の気温を経時的に測定しました。日の出頃の午前6時過ぎでは、外気温と車室内温度はほぼ同じでした。しかし、日が昇るにつれて車室内温度は上昇し、外気温が20℃の午前10時30分頃には、車室内温度は40℃を超えました。そして、午後2時過ぎには約48℃となりました。
これが夏場であったらどうなるでしょうか。日中に車室内温度が20℃台後半であっても、約2時間で40℃を超えます。
人間の深部体温は37℃前後で安定していますが、これが42℃を超えると正常な生理機能が営めずに死に至ると言われています。成人に比べても脆弱な子どもでは、より危険性が高まります。
直射日光の影響がある状況で一定時間自動車を運転すると、徐々に高温、多湿、無風、輻射熱といった、熱中症を生じやすい環境にさらされることになります。つい、運転に集中しているうちに体温が上昇し、正常な判断ができない状況に陥ることがあります。水分補給をまめに行えばよいのですが、運転中にトイレに行きたくなることを恐れて、水分摂取量が不十分になりがちです。
温熱によるストレスや脱水などによって、体液のバランスが崩れていきます。熱中症の初期は、頭痛、めまい、こむらがえりなどの軽い症状から生じますが、本人も熱中症と感じていないことが多いようです。
高齢になると、温度変化の感覚が鈍くなります。それだけでなく、体温を調節する能力は、30歳を超えると年間に0.95%減少すると言われています。
したがって、エアコンをかけて乗車している環境でも熱中症になることがあり、高齢者ほど危険性が高いです。特に仕事で夏に長時間自動車を運転する人は、熱中症を予防すべく対策が必要です。
子どもの置き去り予防に関しては、様々なセンサーと警告装置の開発が進められています。また、車室内環境をモニターし、不快程度を表示する技術なども検討されています。車室内で子どもが死亡するという、悲惨な状況がなくなることを願っています。