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抗CGRPモノクローナル抗体「フレマネズマブ」の発売1年後のリアルワールドデータ[学術論文]

No.5195 (2023年11月18日発行) P.41

菊井祥二 (富永病院脳神経内科副部長/パーキンソン病治療センターセンター長/脳卒中センター副センター長)

團野大介 (富永病院頭痛センター副センター長)

竹島多賀夫 (富永病院副院長/脳神経内科部長/頭痛センターセンター長/富永クリニック院長(兼任))

登録日: 2023-11-20

最終更新日: 2023-11-14

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Point

わが国では2021年8月に抗CGRP抗体薬であるフレマネズマブが発売された。

富永病院頭痛センターでは発売後1年間で165例に使用し,30例では3カ月投与を試みている。3カ月投与例が徐々に増えてきている。

有効例は135例(81.8%)で,反復性片頭痛患者,既存の予防薬の服薬数が少ない患者および薬剤の使用過多による頭痛を併発していない患者に有効性が高い傾向がある。

ガルカネズマブやエレヌマブの無効例~低反応例でもフレマネズマブへの変更で効果がみられる症例もあるが,切替例では有効性が低下する。

3カ月投与は,1カ月投与と同等の有効性があり,通院日数を減らすことができるため,就労世代,子育て世代に多い片頭痛患者には有効な投与方法である。2022年11月にオートインジェクターによる在宅自己注射も保険適用が認められたことから,片頭痛患者の利便性がさらに向上する。

1. はじめに

片頭痛は日常生活に支障をきたす頻度の高い神経疾患である。通常生命を脅かすことはないが,個々の患者の生活の質は大きく障害され,社会全体に与える経済的影響も大きい。わが国では2021年4月以降,抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)抗体薬および抗CGRP受容体抗体薬が次々に上市され,当院で検討したリアルワールドの報告1)~3)においても,いずれの抗体薬でも有効性,安全性が確認された。これまでの経口予防薬で効果が不十分であった片頭痛患者にも福音をもたらし,片頭痛診療でパラダイムシフトがみられている。

CGRP関連抗体薬には10~20%の割合で無効例が存在するが1)~3),抗体薬の切替が有効な症例も存在することが判明した2)3)。しかし,明確なバイオマーカーが存在しないことから,どのような要因にCGRP関連抗体薬が有効であるか無効であるかの予想をすることができない。フレマネズマブは他剤にはみられない3カ月投与の存在が,片頭痛治療にどのような影響をもたらしているかも興味が持たれる。近年,欧州頭痛連盟のコンセンサス4)から,抗体薬は12~18カ月の継続後の一時中止の検討が推奨されているが,抗体薬の中止時期はリアルワールドで判断が難しい要因のひとつである。

筆者らは,発売後1年時点において,当院で経験したフレマネズマブ165例から,①反応予測因子,②3カ月投与を選択した患者の臨床効果,③発売後1年時点でのフレマネズマブと併用する既存の経口予防薬の使用状況,について調査した。

2. フレマネズマブ

フレマネズマブはCGRPに選択的に結合し,2つのアイソフォーム(α-およびβ-CGRP)のCGRP受容体への結合を阻害するヒト化モノクローナル抗体である。海外,国内で実施された多くのランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)において有効性が確認され,『頭痛の診療ガイドライン2021』でも片頭痛予防薬として,強い推奨/エビデンスの確実性Aで推奨されている5)。わが国では,フレマネズマブの最適使用推進ガイドライン6)から,第一選択薬として使用はできないが,欧州頭痛連盟のコンセンサスでは,予防的治療が必要な片頭痛患者において,第一選択薬のひとつとして含めることが提案されている4)

受診頻度を減少させる3カ月投与を選択できることは,学業・仕事・子育てといったライフイベントに関わりながら20~50歳代に好発する片頭痛の治療を行う患者にとって,大きなメリットである。さらに,2022年11月からは従来のシリンジ製剤だけでなく,オートインジェクターが導入され,在宅自己注射も保険適用が認められたことから,患者の選択肢が広がった。

3. 富永病院頭痛センターにおけるフレマネズマブの使用経験

2021年9月1日から2022年8月31日までに最適使用推進ガイドラインに従いフレマネズマブが投与された片頭痛患者は165例(男性:女性=17:148,平均年齢=45.5±16.0歳)であった(表1)。内訳は反復性片頭痛(episodic migraine:EM)が53例,慢性片頭痛(chronic migraine:CM)が112例であり,CMの67例で薬剤使用過多による頭痛(medication-overuse headache:MOH)を併発していた。当院では女性例が多い。全例で2022年10月末までに最低3回のフレマネズマブ投与が行われ,患者申告および医師判断により有効性を判断した。

4. 有効性(表2)

「著明改善」が25例(15.2%),「有効」が68例(41.2%),「やや有効」が42例(25.5%),「変化なし(無効)」が30例(18.2%)であった。「やや有効」まで含めた有効例は135例(81.8%)であった。EM群とCM群にわけて検討してみると,EM群では「著明改善」,「有効」の割合が高い。CM群でMOH併発の有無で検討してみると,MOH併発がない群のほうにおいて,改善例が多い印象である。EM群で改善例が多いということは,ベースラインの片頭痛日数が少ないほうが,フレマネズマブが奏効することを示唆している。

片頭痛が慢性化に至っていないEMの段階から慢性化を予防するためにCGRP関連抗体薬を導入していくことが望まれる。有害事象は,注射部位疼痛が4例(2.4%),便秘,倦怠感,皮疹,瘙痒感がそれぞれ1例(0.6%)であった。有害事象により,4例(2.4%)で投与を中止したが,重篤なものはなかった。

5. 3カ月投与例の検討

30例(18.2%)が3カ月投与を施行していた(表3-1)。全体群と比較して,平均年齢(46.9±14.8歳)には差はみられないが,性差(男性:女性=2:28)では女性に多く3カ月投与が施行されている。EMが11例(36.7%),CMが19例(63.3%),MOH合併が11例(36.7%)で,EMが全体群よりやや多い。フレマネズマブ初回群が19例(63.3%)で,初回時からの3カ月投与例は4例(13.3%)であった。このうち2例は他剤を使用し有効性が得られていたが,3カ月投与を希望し変更した。臨床試験では1カ月投与群(monthly)と3カ月投与群での有効率はほぼ同等であるが,今回の検討では,1カ月投与群と比較して,3カ月投与群のほうが「著明改善」,「有効」が多く,「変化なし(無効)」が少ない(表3-2)。63.3%が1カ月投与から3カ月投与に変更していることから,ある程度の有効性を確認してから,3カ月投与に移行している症例が多いことが示唆される。

 

3カ月投与では,wearing offが危惧されたが,当院の検討では,1例(3.3%)がごく軽度のwearing offを2回目の投与時に訴えたが,3回目の投与時にwearing offはみられなかった。発売早期では,EM例で多く3カ月投与が選択されていたが3),今回の検討では徐々にCM症例での選択も増えてきている。

なお,海外では,38%で3カ月投与が選択されている7)。片頭痛は20~50歳代の就労世代や子育て世代に多く,通院時間の確保が困難であり,通院間隔を延ばすことができるフレマネズマブの3カ月投与は,在宅自己注射も含めて今後さらに増加していくと考えられる。

6. CGRP関連抗体薬の変更の検討

165例のうち,CGRP関連抗体薬としてフレマネズマブの初回群は126例(76.4%)で,2剤目は29例(17.6%),3剤目は10例(6.1%)であった。2剤目の症例はガルカネズマブからが21例(12.7%)で,エレヌマブからが8例(4.8%)であった。3剤目の症例は全例,ガルカネズマブ,エレヌマブの順に投与されていた(表4-1)。

初回群,2剤目,3剤目の「やや有効」まで含めた有効例はそれぞれ88.1%,65.5%,50.0%であった(表4-2)。変更例でも一定の効果がみられており,ガルカネズマブ,フレマネズマブという同じCGRP関連抗体薬間でのブランド変更も考慮可能であることが示唆された。結果的に,抗体薬を長期で使用することが反応性の向上をもたらしているのか,各々の片頭痛患者に最適な抗体薬が存在するのかは議論の余地がある。3剤目の中で唯一の有効例は,前2剤がいずれも有効であったが,注射部位の皮疹のため変更を余儀なくされた症例で,フレマネズマブでも皮疹が原因で中止した。3剤投与された症例では改善が乏しいことがうかがえる。この群は真のCGRP関連抗体薬のノンレスポンダーと推察され,新規の治療法の開発が期待されるが,このような症例に遭遇したときは,残存している頭痛が片頭痛であるかの再検討も必要である。

7. 効果予測因子の検討(表5)

「著明改善」,「有効」,「やや有効」,「変化なし(無効)」からフレマネズマブの効果予測因子を推定した。EMでは「著明改善」,「有効」,「やや有効」,「変化なし(無効)」において,それぞれの割合は48.0%,36.8%,31.0%,10.0%であり,EM例は効果がみられる症例が多い。既存の経口予防薬の種類は,「著明改善」,「有効」,「やや有効」,「変化なし(無効)」において,それぞれ1.3±0.8剤,1.7±0.8剤,1.8±1.1剤,2.0±1.2剤であり,MOHを併発している割合はそれぞれ,28.0%,35.3%,45.2%,56.7%であり,効果が乏しい症例は,これまでの既存の経口予防薬の種類,MOHの併発が多かった。フレマネズマブ初回群で改善例が多いことから,過去のCGRP関連抗体薬の効果不十分~無効の既往も効果不良因子と推察された。年齢や片頭痛罹患年数には効果との相関は見出せなかった。

8. 発売1年後の転帰

120例(72.7%)において,フレマネズマブが継続されていた。14例(8.5%)に有効な効果がみられたため,いったん休薬(いわゆる卒薬)している。

26例(15.8%)がフレマネズマブの効果が不十分~無効のため,4例(2.4%)が注射部位の皮疹や疼痛のため,投与中止もしくは他剤変更がなされている。継続群はフレマネズマブ初回群が多く,投与中止や他剤変更群はフレマネズマブへの変更群が多い(表6-1)。フレマネズマブを継続している120例では,4週群(時に患者の都合で5週になることも含む)が83例,6~8週に投与間隔を延長しての投与群7例,3カ月投与群が30例であった。ほぼ全例(164例)において,フレマネズマブ投与時に既存の経口予防薬も併用していたが,33例(20.1%)で休薬や減量が行われており,131例(79.9%)では投与時の用量を継続していた(表6-2)。フレマネズマブ発売1年後の時点で,投薬に関しては現状維持の症例が65例(39.6%)で最も多かった。

9. おわりに

フレマネズマブの発売後1年目でのリアルワールドでの使用経験を述べた。

当院でのフレマネズマブの検討からは効果予測因子として反復性片頭痛,すなわちベースラインの片頭痛日数が正の因子で,これまでのCGRP関連抗体薬も含めた予防薬の種類およびMOHが負の因子と推察された。

発売早期よりも3カ月投与の導入割合が増えてきている。片頭痛が20~50歳代に好発し,学業・仕事・子育てといったライフイベントに関わる疾患であることがますます認識されてきている結果と思われる。今後,在宅自己注射も含めて,患者には大きなメリットである。フレマネズマブは約8割の患者で有効性が確認され,約7割が継続投与されている。発売後1年を経過し,今後は患者と相談しながら,いわゆる卒薬も徐々に検討されていくと推測される。

【文献】

1) 團野大介, 他:医事新報. 2021;5092:34-7.

2) 菊井祥二, 他:医事新報. 2022;5124:39-43.

3) 菊井祥二, 他:医事新報. 2022;5139:30-5.

4) Sacco S, et al:J Headache Pain. 2022;23(1):67.

5) 日本神経学会, 他, 監:頭痛の診療ガイドライン2021. 医学書院, 2021.

6) 厚生労働省:最適使用推進ガイドライン. フレマネズマブ(遺伝子組換え). 2022.(2022.12.12閲覧)
https://www.pmda.go.jp/files/000248994.pdf

7) Driessen MT, et al:J Headache Pain. 2022;23(1):47.

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