・乳児血管腫とは,乳児期によくみられる皮膚の良性腫瘍である。見た目が「イチゴ」に見えるため「イチゴ状血管腫」と呼ばれている。
・かつては,自然に消えるため「wait and see policy」と教科書に書かれていた。しかし,一部の症例では重篤な症状を起こしたり,後遺症を残したりする場合があるため,最近では非選択的β遮断薬であるプロプラノロール内服(2016年に保険適用)を第一選択薬として積極的に治療することが,ガイドラインにおいても推奨されている。
・乳児血管腫は生後数週で赤みが出現し,5~8週で急速に増大する(増殖期)。その後,赤みが落ちつき,縮小しはじめ,4歳をめどに退縮するとされる(退縮期)。しかし,多くの症例が完全に「消える」ことはなく,何らかの瘢痕を残すことが多い。
・同じ乳児期に起こる「その他の血管腫」と混同しないように,これらの性状や出現時期,典型的な経過を知っておくべきである。
・主な治療法はプロプラノロール内服,パルス色素レーザーである。重篤な症状(眼や気道など重要臓器への影響,出血,潰瘍など)を呈する場合や,醜形を残すことが予想される場合は,積極的に治療する。
・保護者には「消える」とは言わず,「痕が残ることが多い」と説明することが望ましい。その上で治療適応を見きわめ,必要な場合は専門病院に紹介する。
「皮膚の血管腫が薬で小さくなる」という事実に驚く医師は少なくない。2008年に,先天性心疾患のある乳児に対し非選択的β遮断薬であるプロプラノロールを投与したところ,顔にあった乳児血管腫(infantile hemangioma:IH)(いわゆるイチゴ状血管腫)が消えたことで,その画期的な治療法は発見された。まさに偶然の産物,セレンディピティである。その後,瞬く間に世界中で治療効果が検証され,その高い効果が示された。わが国においても治験が実施され,2016年にIHに対する治療薬として薬事承認された(商品名:ヘマンジオル®,マルホ)。
ところが,IHに対する薬物療法はおろか,いまだ「自然に消えるから放置すればよい」と説明する医師が多いのが現状である。最近ではSNS上で患者家族の「小児科では経過観察と言われたが,皮膚科ではすぐに治療すべきだと言われた」という投稿に対し,皮膚科専門医を中心に100万閲覧を超え,小児科医,皮膚科医などから「安易な経過観察はやめよう」「治療すべき血管腫とは?」などのコメント,投稿が多数あった。血管腫という疾患は,IH以外にも様々な種類があり,非常にありふれたものであるが故に,注目もされやすい。しかし,肝心な正確な情報が少ないため,多くの誤解や混乱をまねいているものと考えられる。
本稿では,2009年よりIHを含む様々な血管腫・血管奇形に対し,プロプラノロール療法を行ってきた経験をもとに,一般診療医が抑えておくべき知識と国内外のガイドライン1)2)におけるプロプラノロールの位置づけについてまとめた。また筆者の研究班によって制作した「難治性血管腫・血管奇形 薬物療法研究班 情報サイト」内にそれぞれの疾患の診断,治療,また学会などの最新情報が掲載されているため,ぜひ,一度ご来訪頂きたい(https://cure-vas.jp/)。