梅毒の感染拡大が続いています。2021年以降過去最多を更新しており、今年も昨年同期比1.24倍のペースです。さらに母子感染による先天梅毒の報告数も過去最多となっています。
妊娠初期に必ず梅毒の検査をしますが、そこで梅毒に感染しているとわかると、妊娠中でも治療をします。ただ、治療をしても約14%は母子感染してしまいます。梅毒の母子感染により死産や、皮膚の異常や難聴といった症状が出る先天梅毒となる可能性があります。先天梅毒を避けたいのはもとより、2人の関係性にも大きな影響をもたらす可能性があります。
梅毒は5類感染症に指定される性感染症で、全数報告されていますが、その捕捉率は12〜25%と推定されています。梅毒は症状に気づきにくいこともあり、報告数以上に感染が広がっている可能性が高く、もはや性的にアクティブな人だけの病気ではなく、かなり身近な病気となってきている、というのが現状です。自分には固定のパートナーしかいないのに梅毒に感染した、というケースはめずらしくありません。
梅毒は治療により治せる病気です。従来の長期内服だけでなく、単回投与で治療が完結するペニシリン筋注製剤も2022年から使用可能となっています。
梅毒の感染拡大を抑えるために大事なのは、
これを個々が徹底することと、我々医療従事者が促すこと、これに尽きます。逆に言えば、これが徹底されていないからこそ感染が広まっているのです。実際に、パートナーを問いただしたら、実は梅毒と知りながら、それを伝えずに、治療完了前にセックスをしたことで感染させられたケースがありました。梅毒の症状に気づかない人も多いからこそ、梅毒と診断を受けた人が上記のことを徹底することが重要なのです。
感染した本人も、梅毒を治療しないまま進行すると致死的となる可能性がありますが、何より、大人の事情により、赤ちゃんに影響がでてしまうのは避けたいもの。妊活中に、パートナー以外の人とセックスするということは、このようなリスクを伴う性感染症をもらう可能性があること、という認識は必要です。
稲葉可奈子(公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)[梅毒][性感染症][治療法]