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特集:脳神経内科外来で出会う「肩こり」─コモンな第4の神経症状

No.5201 (2023年12月30日発行) P.18

福武敏夫 (亀田メディカルセンター脳神経センター脳神経内科部長)

登録日: 2023-12-29

最終更新日: 2023-12-26

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1981年千葉大学医学部卒業。千葉大学大学院医学研究院神経病態学助教授を経て,03年より現職。21年より福島県立医科大学医学臨床教授。

1 「肩こり」は,頭痛,めまい,しびれに並ぶ第4のコモンな神経症状

・ヒトは二足歩行によって言語と道具を作り出し,究極的にはそれらを合わせてパソコンやスマホを生み出したが,二足歩行とこれら文明の利器が「肩こり」を増加させている。

2 「肩こり」は「首こり」を含む

・「肩」という字は「首筋」から「肩甲骨」「上腕」を示している。
・「首」は「かしら」を意味し,むしろ「頭部」をさす。

3 「肩こり」の定義はやや困難

・「肩こり」はおよそ「後頭,後頸(項),肩,上背部にかけての重苦しさや張った感じなどの主観的つらさ」を意味する。
・他覚的な筋硬結が認められないことも多い。
・「肩こり」は自覚されていないこともある。

4 「肩こり」の誘因・原因は多様

・三大誘因はストレス(精神的と物理的),運動不足,姿勢の悪さである。
・「肩こり」をきたしやすい職業,神経疾患,頭頸部疾患,全身性(内科的)疾患がある。

5 自覚あり/なしにかかわらず「肩こり」は多くの症状を生み出している

・「肩こり」により,緊張型頭痛が生じるほか,片頭痛発作も増加する。
・「肩こり」は,(浮動性)めまいの最多の背景である。
・「肩こり」は,耳鳴,歯周病,前失神,不安・不眠・漠然たる不調に関連する。

6 「肩こり」の治療

・第一は,もちろん誘因・原因への対策である。
・安易に筋弛緩薬や抗不安薬を用いるのでなく,カプサイシン入り温湿布を第一選択にする。

1 はじめに

「肩こり」という言葉は,近代になって使われはじめたので,古代にヒトがどれほどそれに悩まされてきたかは不明である。しかし,ヒトは二足歩行により,上肢(手)が自由に使えるようになり,身ぶりコミュニケーションから口頭言語を生み出した。一方で石器から始まって多くの道具を作り出し,言語と道具は合わさって筆やペンが発明され,遂にはパソコン(PC)を使えるまでに至った。それとは裏腹に,二足歩行は転倒しやすさという宿命をもたらし,ある意味で無理な姿勢から,同時に腰痛や「肩こり」をきたしやすくした。さらに,PCは手で持ち運べるスマートフォン(以下,スマホ)にまで発展したが,皮肉なことにPCやスマホは目の疲れと姿勢の悪さから,現代の「肩こり」のひとつの大きな誘因になっている。

(1)「肩こり」と脳神経内科

「肩こり」は,誰でも使っている日常的な言葉であり,鍼灸の学会やマッサージ業界では主に治療をめぐって主要なテーマになっている。最近では,ペインクリニック領域において,「肩こり」を「筋・筋膜性疼痛症候群(myofascial pain syndrome)」のひとつとしてとらえ,「筋膜リリース」療法が提唱されている1)。脳神経内科と関連の深い領域としての整形外科ではしばしば雑誌の特集や総説論文が発表され,日本整形外科学会のウェブサイトにも一般向けに「肩こり」が解説されている2)。しかし,これまで神経学の領域では,神経症状とは考えられてこなかった。神経領域の学会では,日本頭痛学会の「緊張型頭痛」をテーマとしたシンポジウムにおいて,2006年3)と2021年4)に「肩こり」が取り上げられたが,これまでどんな神経学の教科書にも,テーマとして取り上げられてこなかった。その理由は,「肩こり」はまったくの一般語であり,統一的定義もなされてこなかったからである。

(2)「肩こり」は第4のコモンな神経症状

しかし,脳神経内科で外来診療をしていると,「肩こり」が背景になっている病態は,頭痛やめまいはもちろんとして,その他のいわば「不定の症状」をもたらしていて,大げさに言えば,脳神経内科外来患者の7割に関連している。すなわち,「肩こり」は,頭痛,めまい,しびれに並ぶ第4のコモンな神経症状と考えるべきである5)

そこで,本稿では,日常診療に役立つように,「肩こり」を字義的・用語的なところから振り返り,それなりの定義を試みた上で,神経疾患やその他の疾患との(相互)関連についても考えていきたい。

なお,本稿は,脳神経内科系の書籍で初めて「肩こり」を取り上げた自著の論考をふまえているが5),それからは大幅に改訂したものである。また,以下の論考では,「肩こり」として,引用箇所以外では常に「 」付きで用いる。それは,筆者も含め,引用文献での「肩こり」の定義が一様とは考えられないからである。辞書や小説など,論文以外の引用は,原則として文献には挙げていない。

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