2024年7月、千円紙幣の肖像画に北里柴三郎先生が採用されます。北里柴三郎先生と言えば血清療法、ですが、読者の先生方は血清療法って何?? となるのではないでしょうか。
近代医学で最古の治療法と言われる血清療法は、1889年に北里柴三郎先生が破傷風菌培養に成功したことに遡ります。北里柴三郎先生によって開発され,それから約130年経った現代でも実臨床現場で展開されています。
“血清”は抗毒素、抗血清とも言われており、現代でも馬に免疫し製剤化しています。マムシやハブ、ヤマカガシなどの有毒蛇咬傷だけではなく、セアカゴケグモなどの有毒クモ咬傷のほか、ハブクラゲやオニダルマオコゼなど有毒海洋生物咬傷に対しても応用されています。またC. pergringens敗血症に対するガス壊疽抗毒素、さらにコリネバクテリウム・ウルセランス感染症に対するジフテリア抗毒素治療など細菌感染症に対する抗体治療の側面も担っています。
私は幸いにもこの血清療法を自分自身が生涯を捧げる研究テーマの1つとしてこれまで取り組み、直接指導頂く機会はありませんが北里柴三郎先生の薫陶を拝し、その教えを学んで参りました。
北里柴三郎先生の研究に対する絶対的な考え方の1つ目は、①常に実臨床を見据えた研究であること、です。これは簡単なようで意外と難しく、気がつくと“研究のための研究”になっていることが我々にも多いのではないでしょうか。自戒の意味も込めて、私は後輩を指導する際に口癖のように、実臨床でどう役に立つのか? 研究のための研究ではいけない、と話し続けています。これを口に出すことで、より現場に沿った考え方、患者目線での研究が可能になります。
2つ目として、これは北里柴三郎先生の直接のお言葉ではありませんが、私が血清療法に取り組む中で確信的に抱くようになった考え方をご紹介します。それは、②“効く”という確信があるテーマを研究の中心に置いて情熱を注ぐこと、です。北里柴三郎先生は、人には“熱”と“誠”を強調されておりますが、その“熱”と“誠”を注ぐテーマはなんでもいいわけではなく、“効く”確信が必要です。これは現代の研究者の先生方には絶対に必要なことだと考えます。情報過多の中、自分が一生を捧げる価値があるかどうかを判断し、選択する必要があります。企業との関わりとか、少しばかりの利益などで判断するのではなく、純粋に自分の研究テーマが“効く”かどうか自分自身に問いかけてみて下さい。
我々日本人研究者はこの大切な教えをもとに日々の研鑽を重ねることで、北里柴三郎先生に見守られながら大きな未来が拓けていくと確信しています。
一二三 亨(聖路加国際病院救急科医長)[血清療法][研究の目的]