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【識者の眼】「壊死性筋膜炎のゲシュタルト」岩田健太郎

No.5210 (2024年03月02日発行) P.57

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2024-02-07

最終更新日: 2024-02-07

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Streptococcus pyogenes、すなわちA群溶連菌による感染症が激増している。理由はよくわからない。しかし、小児の咽頭炎も増加しているし、壊死性筋膜炎などの侵襲性溶連菌感染症も増えている。日本だけでなく、欧州など海外でも増加しているようだ。新型コロナ・パンデミックの数年間で、厳しい感染対策のために溶連菌感染が激減し、免疫低下が起きた反動なのかもしれないが、あくまでも仮説の域を出ない。

ときに、国立感染症研究所は「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」(引用ママ)を、トキシックショック症候群(STSS)と同義に扱っているが、これは間違っている。STSSは侵襲性感染の1表現型だが、そのすべてではない。たとえば、壊死性筋膜炎は侵襲性溶連菌感染症の1つだが、TSSを伴う場合も、伴わない場合もある。UpToDateには、侵襲性A群レンサ球菌感染の3分の1程度にTSSを合併すると説明している。

それはともかく、壊死性筋膜炎の問題を述べる。メディアで「人食いバクテリア」などとオドロオドロしい名称で呼ばれる本疾患だが、これは決して「煽っている」わけではなく、壊死性筋膜炎はどんどん進行していく致死性の非常に恐ろしい感染症だ。「人食いバクテリア」とは言い得て妙だと僕は思う。

増加傾向とは言え、壊死性筋膜炎はそれほどコモンな感染症でないのが幸いだ。医師がしょっちゅう遭遇するような疾患ではなく、多くの医師は一度も経験しないだろう。しかし、逆説的に、診断したことのない疾患であるがゆえに、「疾患のイメージ(ゲシュタルト)」が持ちにくい。診断の遅れは患者の予後にとても影響する。正しい知識で初期に診断したいものである。

よく誤解されているが、壊死性筋膜炎の患肢は黒く壊死して腫れ上がって大きな水疱ができて……というものではない。あれは、診断が遅れて進行してしまった壊死性筋膜炎であり、そうなる前に処置せねばならない。発症初期の壊死性筋膜炎では皮膚には異常所見はない。ないにもかかわらず患者は激痛に苦しみ、バイタルサインは異常である。局所所見と全身状態の大きなギャップが壊死性筋膜炎を早期に診断する「こつ」である。ゲシュタルトと言ってもいい。

患部の皮膚を切開すると、「食洗機の洗い水」様のサラサラした、筋膜を溶かされた液が出てくる。経験値のない医師が「患肢を切開したけれども排膿がないので壊死性筋膜炎は否定的」とコメントされることがたまにあるが、排膿がないのが典型的なのだ。

糖尿病などが壊死性筋膜炎のリスクファクターだが、リスクがない患者でも発症することがあるから、やっかいだ。たまにしか遭遇しないが、誰でも遭遇しうる。壊死性筋膜炎の初期診断は医師すべてが知っておきたい必須知識である。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[A群溶連菌感染症][STSS]

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