承認後の医薬品について品質が担保されていることを確認する安定性モニタリングの溶出試験で、沢井製薬の九州工場が「別のカプセルに薬剤を詰め替えて試験を行う」という不正行為を続けていたことが発覚。厚生労働省は昨年12月、沢井製薬に対し「総括製造販売責任者の変更命令」という厳しい行政処分を下した。医薬品供給不足への対応も求められる中、「品質」への信頼を取り戻すため、同社はどのような取り組みを進めようとしているのか。不正事案が発生した原因・背景、再発防止への意気込みを木村元彦社長に聞いた。
木村 安定性モニタリングの溶出試験は2014年頃、当局の指導により、従前の「成り行き室温」で保存した検体を用いる方法から、「温度25℃・湿度60%」で保存した検体を用いる方法に変わったのですが、テプレノンカプセル50mg「サワイ」(胃炎・胃潰瘍治療薬)はこの条件下の試験に耐えられなかった。その時にしっかりと品質改良していれば、このような事案は起こらなかったと考えています。
溶出試験で思わしくない結果が出て、内容物とカプセルとどちらに問題があるのか、当時の工場長が現場に指示して調べさせたのですが。その時に新しいカプセルに詰め替えて試験をしたら規格内の結果が出た。その試験結果をもって溶出試験に関するGMP(医薬品の製造管理・品質管理基準)上の手続きを終了させてしまった。その処理を受けて現場は「そういうやり方をしてもいいんだ」と思い込んでしまったのです。
GMP教育がしっかりなされていれば、現場レベルでおかしいと気づいて止まっていた話です。原因調査を指示した側にも誤解を招く伝え方があったと思っています。決して、試験を合格させようと思って不正を行ったのではなく、何の悪意もなく「そういうものだ」と思って不適切な試験を続けていたのです。
多能工化の一環で業務をローテーションする中で新しい担当者が試験をしたら溶出率が著しく低いという結果が出た。それがきっかけで問題が発覚しました。
木村 GMP教育を徹底してやっているつもりができていなかった。そこは反省しないといけない。人材育成が十分でなかったと思っています。
木村 直接はリンクしていませんが、他社の事案の報告書などを見て、生産現場には大きなリスクがあるということで社内チェックを進めてきました。それでも今回の事案は見つからなかった。他社の事案を他山の石にしてのスタディも十分にできていなかったと思わざるを得ないです。
木村 非常に重く受け止めています。社長と相対するぐらいの力を持った総責を変更しなさいという命令ですから、会社の組織自体も見直さなければいけないと受け止め、対象者は一切の役職を辞任し、信頼性保証本部長の交代も行いました。信頼性保証本部は新しい体制で再出発しています。
木村 MR(医薬情報担当者)や支店長から「非常に厳しいご批判を受けている」という報告が上がってきています。昨年10月に発表した再発防止策や大阪府・福岡県にお約束している改善計画をしっかり実行していく、企業風土改革プロジェクトの毎月の進捗をイントラネットで全社員共有し、医師・薬剤師の先生方に「ここまで進んでいます」とご説明できるようにして信頼回復するしかないと思っています。
木村 まだまだ教育が足りないということで人材育成ですね。GMP教育の再実施やコンプライアンス意識の向上、事が起こった時にしっかりとフォローするシステムの構築も大事だと思っています。
木村 私もひしひしと感じています。厳しい言葉はありますが、その中でも「沢井が倒れてしまっては困る。しっかりやってくれよ」という言葉が多く、期待されているからこそ「沢井もか、信頼していたのに」という言葉をいただいていると思います。そこはしっかりと受け止めて、医薬品をつくることの重みを社員と共有していきたいと思います。