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地の果てパタゴニアへの道/パイネの暴風あなどりがたし/氷山は青く、山は気高し[なかのとおるの御隠居通信 其の22]

No.5209 (2024年02月24日発行) P.66

仲野 徹 (大阪大学名誉教授)

登録日: 2024-02-21

最終更新日: 2024-02-20

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4年半ぶりの海外旅行は南米最南端、念願のパタゴニアに行ってまいりました!

地の果てパタゴニアへの道

僻地ツアーや登山ツアーに参加すると、それまでに行った中でどこがいちばんよかったかという話がよく出る。個人的順位付けによると、パタゴニアがぶっちぎりで1位だ。行った人が口をそろえて「パタゴニアの景色は世界のどことも違っている」と言う。行かねばなるまいて。

もう十数年前に決意はしたのだが、ずっと延び延びになっていた。なにぶんにも遠い、最低でも2週間は必要だ。季節が逆の南半球なので、夏休みにという訳にはいかない。さすがの私でも現役の間は無理だった。定年になったら真っ先にと心づもりしていたのだけれど、認知症の母親がいて思うにまかせなかった。その母も昨年に亡くなったのでようやく、という訳である。

パタゴニアはチリとアルゼンチン両国にまたがっており、チリ側はパイネ、アルゼンチン側はロス・グラシアレス(=ザ・氷河)という国立公園が観光のメインになる。両方を訪れ、トレッキングも堪能できるというツアーに夫婦で申し込んだ。航空運賃の値上がりと円安で相当な出費だが、そんなことは言っていられない。何しろ、歩ける間に行かねば機会を逸してしまう。

ここまでの経緯だけでなく実際の道のりも遠かった。パタゴニアのチリ側入口はマゼラン海峡に面したプンタアレナス、マゼランはもちろん、ダーウィンも立ち寄ったことがある港町だ。乗り継ぎの悪さもあるけれど、成田を出てから40時間もかかった。大阪からだと成田に前泊せねばならんかったので、まる2日半だ。いやはや遠い。

パイネの暴風あなどりがたし

パイネではWサーキットを楽しんだ。その歩くルートを地図で見ると「W」の形に似ているので、そう名付けられている人気のコースだ。「パイネの角」や「パイネの塔」という実に姿のよい山々を眺めながら、丸4日間のトレッキングコースである。いちばん長い日は半日がかりで21kmを歩くというからけっこうハードだ。

パタゴニアは風が強く天気が変わりやすいと聞いてはいたが、想像以上だった。初日、足慣らしの2時間ハイキングでいきなり驚かされた。出発時は完璧な晴天で、雨具も不要かと思えるほどだった。ところが、一天にわかにかき曇り、台風並みの暴風雨になった。全身ずぶ濡れだ。湖が強風に煽られ水煙が上がるところを初めて見た。大げさでなく、本当に体が吹き飛ばされそうで、さすがに恐ろしかった。

いきなりそんな洗礼を受けたので、少々の天候変化にはへこたれなくなったのは不幸中の幸いだった。トレッキングは全部で6日だが、うち4日は好天だったので、よしとせねばならんだろう。Wサーキットの目玉、風雨の中たどり着いたパイネの塔も、半時間ほど粘った末にようやく、雲にかすんではいたけれど姿を見せてくれたし。

氷山は青く、山は気高し

アルゼンチン側に移動し、まずは氷河見学。ツアーには氷河を歩くハイキングが組まれているのだけれど、65歳までの年齢制限があって残念ながら参加できず。かわりの氷河湖クルーズである。これも聞いてはいたのだけれど、ウプサラ氷河から流れ出た巨大な氷山が真っ青であることにびっくり。氷の密度が高いからこそらしいが、まさかここまで青く見えるとは。

クルーズの後には、その末端部の崩落が有名なペリト・モレノ氷河の展望台へ。崩れる音だけで崩落は見られなかったけれど、青いとげとげの氷河は雄大だった。この氷河、歩きたかったなぁ。

その道中、ガウチョ(南米のカウボーイ)に遭遇した。ガウチョ帽をかぶって馬にまたがった2人が300頭あまりの羊の群れを操っているのには驚いた。今でもこんな格好でやったはるんや。

難攻不落で有名な山セロ・トーレを展望するトレッキングはけっこうな雨。ふもとの氷河湖まで歩いたツアー仲間もいたけれど、仲野家登山隊は、翌日に備えて途中であっさりギブアップ。観光のために作られた麓の町チャルテンで、生ビールと地元の人がやたらと飲んでいる「マテ茶」をほっこり楽しんだ。

最終日はツアーの目玉、名峰フィッツロイだ。地元名は「煙を吐く(=雲で覆われている)」という意味のチャルテンだが、大人の事情で、ダーウィンが乗船したビーグル号の船長の名が冠されたそうな。それはともかく、前日の悪天候がウソのような快晴! 写真でわかるように、見事としか言いようのない気高き姿を楽しみながらの山歩きは夢のようだった。

パイネ山群もフィッツロイ山群も、確かにどこにもない景色だった。山脈の一部ではなく、地表からもこっと立ち上がっている。そして、その山容が信じられないような異形である。かつて山を覆い尽くしていた(!)氷河の浸食作用でこんな形になったとか。いやぁ、地の果てまで行っただけの値打ちがありましたわ。

仲野 徹 Nakano Toru
大阪市旭区生まれ。1981年阪大卒。2022年4月より阪大名誉教授。趣味は読書、僻地旅行、義太夫語り。『仲野教授の笑う門には病なし!』(ミシマ社)大好評発売中!

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