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心臓マッサージの合併症[先生、ご存知ですか(73)]

No.5213 (2024年03月23日発行) P.67

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2024-03-20

最終更新日: 2024-03-15

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バイスタンダーによる救命処置

わが国では年間約12万6000人が心肺停止状態で救急搬送され、うち44%が心原性です。総務省消防局の統計によると、119番通報から救急隊現場到着までの平均時間は9.4分です。したがって、バイスタンダーによる救命処置が欠かせません。心原性心肺停止患者のうち、バイスタンダーが目撃した件数は年間2万6500件で、うち1万5225件でバイスタンダーによる心肺蘇生が行われていました。

心肺停止の人に対しては、直ちに絶え間ない胸骨圧迫を行うことが推奨されています。一般の人に対しても、胸の中央が少なくとも5cm沈むように(小児・乳児は胸の厚さの1/3)、1分間に100~120回のテンポで圧迫するように広報されています。American Heart Associationのガイドラインでは、成人に対して、5cm以上6cm未満の深さで圧迫するよう推奨されています。心肺停止状態の人に対して心臓マッサージを行うことの有用性については疑う余地がありません。

合併症の種類と重症度合い

しかし、先のガイドラインで6cm未満と記載されているように、しばしば、心臓マッサージの圧迫による合併症について報告があり、これらは死後の剖検で明らかになります。よく認められる合併症は胸骨骨折と肋骨骨折です。多くは、これらのみで生命に影響を及ぼす程度ではないと考えられています。しかし、胸骨圧迫によって重症の損傷が生じたという報告もあります。

胸骨圧迫が行われた15歳以上を対象とした研究結果によると、全体の約7割で胸骨圧迫による何らかの損傷が認められました。内訳を見ると、肋骨骨折が60%と最も多くを占め、胸骨骨折が37.3%、心損傷が21.3%、肝損傷が8%と続き、臓器損傷を生じることもわかりました。そこで、外傷に対する解剖学的重症度評価法をもとに、重症損傷を負う例を調べたところ、何らかの損傷を負った人のうち、69%は重症損傷を負っていました。重症損傷のうち、最も多かったのが3本以上の多発肋骨骨折でしたが、大動脈解離、肺挫傷、心破裂などもみられました。

高齢者ほど重症損傷を負いやすい

このような損傷が起こる背景を調べるために、対象者の体格、心臓マッサージが行われていた時間、場所、抗凝固薬内服の有無、脊椎後弯の有無、用手的な圧迫か機器による圧迫か、などを調査しました。そして、胸骨圧迫による損傷発生、あるいは重症損傷の発生に影響を及ぼす因子を調べました。すると、いずれも年齢のみが、損傷発生あるいは重症損傷発生の予測因子となりました。高齢者ほど、胸骨圧迫によって何らかの損傷、重症損傷を負いやすいということです。

確かに、わが国は米国に比べて高齢化が進んでおり、胸骨圧迫を受ける人の多くが高齢者です。先の研究における対象者の平均年齢は60歳でした。高齢者の、外力に対する耐性が低いことは明らかです。さらに、わが国の高齢者は米国と異なり、体格は小さく、内臓脂肪も少ないことから、そのような日本の高齢者に対して、胸骨を5cm以上の深さで圧迫するということに、少々違和感を覚えます。高齢化が進むわが国において、検討課題のひとつではないでしょうか。

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