【患者の既往歴や合併症,使用している抗血栓薬の数・種類に応じ,PPIあるいはP-CABの使用を判断する。また,各薬剤の特徴を考慮し選択していく必要がある】
「低用量アスピリン(low dose aspirin:LD A)投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制」では,ボノプラザン(VPZ)10mg,ランソプラゾール(LPZ)15mg,エソメプラゾール(EPZ)20mg,ラベプラゾール(RPZ)5mg(10mg)が保険適用になっています。しかし,既往がない場合やLDA以外の抗血小板薬や抗凝固薬内服中の場合,酸分泌抑制薬の予防的投与については,現状では保険適用となっていません。
循環器領域では,大規模ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)であるBhattらのCOGENT trial 1)があり,数報RCTも出ており,それらを用いたメタ解析もあります。予防的にPPIを投与することで,消化管出血イベントを減らしたとの結論も出ています。循環器領域では心筋梗塞で行った経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)後の抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)など抗凝固療法の中断がステント再閉塞率や予後に関わるため,PPI/P-CAB(potassium-competitive acid blocker,カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)による消化管出血イベントの抑制が積極的に行われています。
一方で,脳神経領域では一過性脳虚血発作後,軽度の脳梗塞後の患者対象の出血リスクについて検討したRCT 2)が1報あります。この試験では,DAPTであっても出血リスクは低いと結論しています。なお,このRCTでは予防薬としてPPIは投与されていません。もちろん,各々対象とする疾患が異なりますし,疾患の重症度・予後についても各領域で差があります。しかし,心筋梗塞後と脳梗塞後は同様に抗血小板薬・抗凝固薬の内服を行っており,致死的消化管出血イベント抑制を考えるのであれば,積極的なPPI/P-CABの使用を考慮できるのではないでしょうか。
また,直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)・ワルファリン・クロピドグレル単体では,出血性胃潰瘍のリスク因子とは結論されていません3)。しかし,他の条件が加わると出血リスクとなるので,H. pylori感染の有無や,過去の胃潰瘍歴,LDA以外にもNSAIDs内服などがあるかの確認も重要だと考えます。
head to headでの試験はありませんが,VPZ 20mgとEPZ 20mgでは,ネットワークメタアナリシス4)5)からVPZ 20mgのほうが酸分泌抑制効果が高いとされています。両薬剤のLDA投与時の潰瘍再発抑制試験等6)7)の結果から,VPZ 10mgはEPZ 20mgと酸分泌抑制効果は同等以上とされています。EPZはPPI中では,CYPの影響を受ける可能性が一番低く酸分泌抑制効果が高いです。最近,後発品も販売されましたので,医療経済面からも選択しやすくなりました。しかし,CYP2C19で代謝されるため,クロピドグレルやシロスタゾールは競合阻害され抗凝固作用が増強する可能性があります。VPZは,主にCYP3A4で代謝されるので,CYP2C19の影響を受けにくい薬剤です。
VPZは錠剤もOD錠も発売されています。EPZは懸濁用顆粒の剤形もあり,経管投与には使いやすいと思います。
【文献】
1)Bhatt DL, et al:N Engl J Med. 2010;363(20): 1909-17.
2)Tillman H, et al:JAMA Neurol. 2019;76(7):774-82.
3)日本消化器病学会, 編:消化性潰瘍診療ガイドライン2020. 改訂第3版. 南江堂, 2020.
4)Oshima T, et al:J Clin Gastroenterol. 2022;56(6): 493-504.
5)Miwa H, et al:J Gastroenterol. 2019;54(8):718-29.
6)Sugano K, et al:Gut. 2014;63(7):1061-8.
7)Ishii M, et al:Circ J. 2023;87(2):348-59.
【回答者】
佐野正弥 東海大学医学部内科学系消化器内科学
鈴木秀和 東海大学医学部内科学系消化器内科学教授