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脳梗塞治療時に併用すべき胃薬は?

No.5214 (2024年03月30日発行) P.44

佐野正弥 (東海大学医学部内科学系消化器内科学)

鈴木秀和 (東海大学医学部内科学系消化器内科学教授)

登録日: 2024-04-01

最終更新日: 2024-03-26

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脳梗塞の治療で抗血小板薬や抗凝固薬を処方しますが,その際,同時に投与すべき胃薬についてお教え下さい。一般的にはプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)を併用することが多いと思いますが,PPIの副作用も多く,どの抗血小板薬,抗凝固薬に対してどの胃薬を使うべきか,その基準に悩んでいます。参考文献および書籍がありましたら併せてお教え頂ければ幸いです。(大阪府 K)


【回答】

【患者の既往歴や合併症,使用している抗血栓薬の数・種類に応じ,PPIあるいはP-CABの使用を判断する。また,各薬剤の特徴を考慮し選択していく必要がある】

「低用量アスピリン(low dose aspirin:LD A)投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制」では,ボノプラザン(VPZ)10mg,ランソプラゾール(LPZ)15mg,エソメプラゾール(EPZ)20mg,ラベプラゾール(RPZ)5mg(10mg)が保険適用になっています。しかし,既往がない場合やLDA以外の抗血小板薬や抗凝固薬内服中の場合,酸分泌抑制薬の予防的投与については,現状では保険適用となっていません。

循環器領域では,大規模ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)であるBhattらのCOGENT trial 1)があり,数報RCTも出ており,それらを用いたメタ解析もあります。予防的にPPIを投与することで,消化管出血イベントを減らしたとの結論も出ています。循環器領域では心筋梗塞で行った経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)後の抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)など抗凝固療法の中断がステント再閉塞率や予後に関わるため,PPI/P-CAB(potassium-competitive acid blocker,カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)による消化管出血イベントの抑制が積極的に行われています。

一方で,脳神経領域では一過性脳虚血発作後,軽度の脳梗塞後の患者対象の出血リスクについて検討したRCT 2)が1報あります。この試験では,DAPTであっても出血リスクは低いと結論しています。なお,このRCTでは予防薬としてPPIは投与されていません。もちろん,各々対象とする疾患が異なりますし,疾患の重症度・予後についても各領域で差があります。しかし,心筋梗塞後と脳梗塞後は同様に抗血小板薬・抗凝固薬の内服を行っており,致死的消化管出血イベント抑制を考えるのであれば,積極的なPPI/P-CABの使用を考慮できるのではないでしょうか。

また,直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)・ワルファリン・クロピドグレル単体では,出血性胃潰瘍のリスク因子とは結論されていません3)。しかし,他の条件が加わると出血リスクとなるので,H. pylori感染の有無や,過去の胃潰瘍歴,LDA以外にもNSAIDs内服などがあるかの確認も重要だと考えます。

head to headでの試験はありませんが,VPZ 20mgとEPZ 20mgでは,ネットワークメタアナリシス4)5)からVPZ 20mgのほうが酸分泌抑制効果が高いとされています。両薬剤のLDA投与時の潰瘍再発抑制試験等6)7)の結果から,VPZ 10mgはEPZ 20mgと酸分泌抑制効果は同等以上とされています。EPZはPPI中では,CYPの影響を受ける可能性が一番低く酸分泌抑制効果が高いです。最近,後発品も販売されましたので,医療経済面からも選択しやすくなりました。しかし,CYP2C19で代謝されるため,クロピドグレルやシロスタゾールは競合阻害され抗凝固作用が増強する可能性があります。VPZは,主にCYP3A4で代謝されるので,CYP2C19の影響を受けにくい薬剤です。

VPZは錠剤もOD錠も発売されています。EPZは懸濁用顆粒の剤形もあり,経管投与には使いやすいと思います。

【文献】

1)Bhatt DL, et al:N Engl J Med. 2010;363(20): 1909-17.

2)Tillman H, et al:JAMA Neurol. 2019;76(7):774-82.

3)日本消化器病学会, 編:消化性潰瘍診療ガイドライン2020. 改訂第3版. 南江堂, 2020.

4)Oshima T, et al:J Clin Gastroenterol. 2022;56(6): 493-504.

5)Miwa H, et al:J Gastroenterol. 2019;54(8):718-29.

6)Sugano K, et al:Gut. 2014;63(7):1061-8.

7)Ishii M, et al:Circ J. 2023;87(2):348-59.

【回答者】

佐野正弥 東海大学医学部内科学系消化器内科学

鈴木秀和 東海大学医学部内科学系消化器内科学教授

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