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う蝕・歯髄炎[私の治療]

No.5215 (2024年04月06日発行) P.46

中島純子 (東京歯科大学オーラルメディシン・病院歯科学講座准教授)

登録日: 2024-04-07

最終更新日: 2024-04-02

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  • う蝕原性ミュータンス連鎖球菌であるStreptococcus mutansやS. sobrinusを主とする感染症で,複数の因子が関与する多因子疾患である。これらは,ショ糖を基質として菌体外多糖類である不溶性グルカンを形成し,歯面に強固に結合する。グルカンを中心として形成されたプラーク(歯垢)は,多様な細菌が存在する膜状構造物(バイオフィルム)である。バイオフィルム形成により細菌は抗菌薬から守られ,産生された酸が局所に停滞することにより,歯質の脱灰が生じる。
    う蝕には,エナメル質う蝕,象牙質う蝕,セメント質う蝕(根面う蝕)があり,好発部位は,小窩裂溝,隣接面,歯頸部,露出セメント質である。初期は歯冠部表層のエナメル質う蝕,あるいは歯根部表層のセメント質う蝕であるが,病巣が拡大すると象牙質う蝕となり,進行し歯髄に達すると歯髄炎を呈する。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    初期のエナメル質う蝕は,肉眼的に不透明な白斑あるいは褐色斑として認められ,小窩裂溝部では褐色の着色として観察される。

    う蝕がエナメル質の範囲にとどまっている場合,自発痛はない(う蝕症1度:C1)。う蝕病巣が象牙質に達すると,脱灰の進行による実質欠損である「う窩」がさらに拡大し,刺激痛が発現する(う蝕症2度:C2)。象牙質はエナメル質と比較して石灰化度が低いため,う蝕の進行が速くなる傾向がある。象牙質う蝕が進行し,歯髄に影響が及ぶと歯髄炎を呈し,強度の自発痛が発現する(う蝕症3度:C3)。歯髄炎が歯髄全体に波及し,歯髄組織が生活力を失うと歯髄壊死に至り,自発痛は消失する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    う蝕は脱灰と再石灰化を繰り返すダイナミックな病態を示すため,白斑あるいは褐色斑として認められるエナメル質初期う蝕や,象牙質に達する病変でも実質欠損がわずかな場合には,フッ素塗布やフッ化物徐放性グラスアイオノマーセメントの塗布により,再石灰化を期待する。

    う窩を形成した場合は自然治癒が見込めないため,う蝕病巣の除去のために切削介入を行い,コンポジットレジンなどを充填する。う窩の広がりによっては,う蝕病巣を除去後に窩洞を形成し,印象採得(型取り)を行い口腔外で修復物を製作し,窩洞に合着する。不可逆性歯髄炎の場合は,歯髄の除去を行う(抜髄)。

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