5191号の本欄で取り上げたHPVワクチンの男性接種について、厚生労働省において定期接種化が議論されていましたが、2024年3月14日の検討部会で当面見送るとの判断がなされました。
その資料を見ると、「有効性や安全性に異論はなかった」とあります。
にもかかわらず、なぜ見送られたかというと、
「費用対効果に課題がある」からとのこと。定期予防接種は公費が使われるので、費用対効果の観点はもちろん必要です。
今回の分析資料では、女性への間接的(子宮頸がん予防)効果も推計されており、女性への間接的効果は、当然、女性の接種率により変動します(女性自身が接種していなければ、男性接種による間接的効果は大きい)。女性の接種率を4通り(20、40、60、80%)に仮定してそれぞれの場合の費用対効果を推計しています。現在の日本の女性のHPVワクチン接種率(実施率ではなく接種率)に近いのは20%で(20代前半は10%台)、女性の接種率が20%の場合の費用対効果はかなりよい、という結果になっています。
資料の結論にも、
「女性の接種率が向上した場合には男性接種の費用対効果が悪い可能性が示唆された」
と書かれています。
女性の接種率が向上した場合には、です。
もちろん接種率は向上してほしいですし、そのために全国の先生方が啓発にご尽力下さっていますが、残念ながら以前の70%にはまだ程遠いのが現状です。
この費用対効果の推計をふまえると、むしろ、女性の接種率が低いからこそ、男性も定期接種化することで国民全体の健康に寄与する、のではないかと思います。
男性も女性も、自身が接種するのが自分自身の病気の予防としては一番間違いないので、希望される接種対象の方は費用のハードルなく接種できるようになるよう、真っ当な議論を期待します。
4月から東京の複数の市区町村でもHPVワクチン男性接種に助成がでています(都が1/2、市区町村が1/2負担)。助成のない自治体でも、男性から自費接種の問い合わせがあった場合にはぜひご対応下さい。
あわせて、高校1年生〜1997年度生まれの方(今年度27歳になる方)は、HPVワクチンを無料で接種できるのは今年度までです。3回全部(計約5〜10万円)を無料で接種するには9月までに接種開始が必要ですので、ご周知のほどよろしくお願いいたします。
稲葉可奈子(産婦人科専門医)[費用対効果][自治体の助成]