2024年4月24日、厚生労働省医政局「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」(以下、「検討会」)の最終報告書案が示された。この検討会は、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」を受け、後発薬の安定供給のための産業構造を議論するために設置されたもので、2023年7月から12回にわたり議論が重ねられてきたが、報告書は見るべき内容に乏しい。
これまでも、厚労省は「少量多品目」について、「1社での取扱品目数が多い中で少量ずつ生産する」ことと「同成分同規格の製品が多数の企業から製造販売される」こととを整理せずにきたが、この点が相変わらず整理されないまま議論がなされている。一般的には、少量多品目とは前者の意味で用いられる。一方、日本での後発薬供給不足の主因は、後発薬企業の品質・製造トラブル(不祥事)であるが、1企業の少量多品目製造がこれらの不祥事の要因とするエビデンスは存在しない。にもかかわらず、少量多品目が品質・製造問題の原因とされている。報告書にも記載の通り、日本の後発薬企業の多くは規模が小さいが、品質・製造トラブルを起こしている企業の製造品目数も多いわけではなく、報告書の記載に矛盾がある。
議論がこうした事実誤認から出発しているため、「少量多品目を適正化」するための方策にも問題がある。同一成分について品目数が多いという意味での「多品目」に対しては、新規収載時の品目数適正化と薬価削除手続きの簡素化を政策として挙げている。新規収載時の品目数の適正化は進めるべきであるが、これまでも、「売り逃げ」できないように新規薬価収載時に後発薬企業に安定供給を確約させる仕組みがあった。一方で、薬価削除手続きの簡素化については、安易な「売り逃げ」を認めることにもつながりかねず、これまでの政策と整合性がとれない。
産業構造のあり方としての「企業間の連携・協力の推進」として、コンソーシアムや企業統合が示されている。報告書の通り、日本の多くの後発薬企業の製造力が小さいことは事実である。具体的には、製造1バッチ当たりで製造できる量の上限が低いということである。製剤化のための原薬や添加剤の混合や、造粒のための設備の規模が小さく、企業間の連携、協力を行ったところで、バッチ当たりの製造量が増えるわけではない。組み立て型産業のように製造ラインが大きくなれば製造量が増える産業とは違う。中小規模の企業の連携、協力では、「少量多品目」構造が拡大するだけである。
また、2005年の薬事法(当時)改正以降、医薬品全体での製造の委受託が可能となっている。すなわち、現実に、A社がB社に製造委託し、これをA社ブランドで販売することで、製造の効率化が行われているのが事実である。報告書では、コンソーシアム等での屋号移管や製造量調整のための独禁法対応の課題も示されているが、こうした面倒な対策をしなくとも、現実に「連携・協力」はできているわけで、その点からも提言は現実的とは言えない。
2024年4月29日、欧州連合は、医薬品供給不足に対応するための「クリティカル・メディシン・アライアンス」の正式発足を発表した。このアライアンスは、医薬品(先発薬も含む)の安定供給を確実なものにするため、規制当局、製薬企業、医療関係者、学識経験者等がアライアンス(同盟)を組むものである。アライアンスの具体的な取り組みとして、製造業を強化して重要な医薬品の供給を確実なものとするために、企業のパイプラインへの投資が議論されている。そもそも少量多品目製造は、世界的に見ても後発薬産業の特徴であり、欧州の取り組みに見られるように、質の高い企業が多品目製造にさらに対応できるよう投資や支援を強化することがより現実的な産業政策ではなかろうか。
坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[後発薬][産業構造]