昨年の婚姻数は50万組を割り込み、この10年の間に約20万組減少、実に90年ぶりとのことだ。2030年代までのこの数年間が、少子化に歯止めをかけられるかどうかの最後の機会という。
出生数が減少している理由について、20代女性の意識調査では、①経済的理由、②出産・育児の負担、③仕事と育児の両立─が上位だ。少子化対策は縮小日本の喫緊の課題だが、この背景には複雑に絡み合ったわが国の積年の構造問題があり、あらゆる方法を動員駆使して解決をめざすべき、国の存亡をかけた対策が必要だ。
昨年、助産師として長年、病院、子ども家庭センターなどで産後ケアに関わってきた方から、産後ケア事業立ち上げについての相談を受けた。産後ケア事業は2021年の改正母子保健法施行で自治体の努力義務になり、実施自治体は既に8割を超えているという。酒田市も妊娠、出産、子育て包括(ネウボラ)事業を行ってきたが、とりわけ宿泊型産後ケアなどの利用者はきわめて少ない状況にある。山形県・酒田市病院機構は25年4月からの不妊治療外来立ち上げに向けて準備を進めていることもあり、産前産後ケア事業の持続性とは強い関わりがある。
事業計画を拝見すると、提供するサービスの種類にもよるが、新生児を持ちながら働く、とりわけ低所得世帯の産婦が費用負担に悩まず活用できる利用料金とは思えず、持続可能な利用者数を確保できるかどうかに若干の懸念を覚えた。
産前産後ケア事業は人件費の占める割合が大きい。地方でこの事業を持続させるためには、自治体が地域の出生数増加を図るための最重要事業の一つとして直営で運用、非営利の助産院に委託してその概算人件費を予算に計上し、運営費の一部をサービス料に転嫁する仕組みにできれば、低所得世帯でも気軽に利用できる料金にできるのではないかと考え、関係者と実現のための工程について調整に入ったところである。
出産数が年々激減していく地方でも安定的な産前産後ケア事業を持続していくためには、善意の助産師の使命感、献身にゆだねるようなことをしてはならない。働きながら子育てしやすい環境を整えられるかは今後の自治体の存亡に直結する。産前、産後の支援は医療も含め、子育て全般に関連する多くの関わりが必要であり、総合的なケアの充実と質の引き上げを全体の関わりに上げていくような仕組みが求められる。
出産、子育てが地域全体の喜びであるような仕組みをつくること、それこそが国の少子化を止める唯一の方法なのではないか。未来は若者のものであり、国の予算をその未来のために使ってほしいと切に願う。
栗谷義樹(地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネット代表理事)[少子化対策]