低体温症とは深部体温(直腸温、膀胱温など)が35℃以下に低下した状態で、体温が低くなるほど死亡率が高いと報告されています。深部体温が約30℃を下回ると、心室細動などの致死的不整脈で死亡に至ります。低体温症は冬季の屋外で多く発生しますが、東日本大震災や能登半島地震に代表されるような大規模災害時にも多く発生します。また、近年では高齢者が屋内で低体温症になることも報告されています。
さて、わが国では、施設や地域での症例をもとに低体温症発生の背景などが検討されていますが、夏季にも発生すると報告されています。ある市中病院に搬送された低体温症患者の6%が6~8月に発生し、また、4都道府県において発生した低体温症の6.7%が6~8月に発生したという報告があります。
筆者らも、2つの救命救急センターに搬送された低体温症の患者について調べてみました。すると、全体の約3割は1月に発生していましたが、5.8%は夏季に発生していました。過去の報告とほぼ同じ割合です。
夏季に発生した事例を細かくみると、平均年齢は70歳で、82%の人はADLが自立していました。また、73%の人が屋外で発見されていました。側溝に転落して骨折して動けなくなった、川に落ちて体が濡れ、そのまま動けなくなった、などの例がありました。
夏季に限らず、低体温症を対象とした多施設研究によると、対象患者のピークは80歳代で、半分以上の患者はADLが自立していました。また通年での発生例をみると、屋内で発見された人のほうが7割以上と多くみられました。ADLが自立で独居生活している高齢者が、つまづいたり足を滑らせたりして自宅内で転倒した、脳卒中を発症して麻痺が生じた、低血糖などで動けなくなった、などの例が散見されました。
ADLが自立しているといっても、高齢者の場合は座った状態から立ち上がることはできても、床や側溝などに倒れた状態から起き上がることは困難です。ましてや損傷がある場合には、痛みのために起き上がれなくなります。さらに、高齢者では熱産生能力が低下し、寒冷刺激に対する皮膚血管収縮反応性も低下しているため、周囲の寒さに対応できにくくなります。
夏季でも、屋内で低体温症になる高齢者がいます。発見までの時間が長くなるほど、脱水症などを合併し、全身状態は悪化します。
早期発見のためには、高齢者見守りサービスなどの利用や地域で孤立を防ぐシステムづくりが求められます。ある自治体では、運送業者と協定を締結し、ドライバーが高齢者宅を訪問して2日続けて応答がなかったら自治体に連絡する、定期的に発行される刊行物を配布する際にドライバーが高齢者に対して体調の確認を行う、などの取り組みが行われています。筆者らも、自宅で死亡した状態で発見された人の死因を明らかにしていますが、早期に発見されれば救命できたであろうと思われる低体温症に遭遇することがあります。
医療従事者は、たとえADLが自立しているような人でも、夏季に低体温症が起こりうることを前提に、訪問診療や救急診療に携わる必要があります。