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【識者の眼】「うつ病を繰り返す患者さん」堀 有伸

No.5234 (2024年08月17日発行) P.66

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2024-07-31

最終更新日: 2024-07-31

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うつ病は、心の問題だけではなく、脳や神経の疾患であると説明されることが増えてきました。私も日常の臨床現場において、ほとんどの場合にそのように説明しています。症状が進行すると、単に気分が沈むだけでなく、思考力や記憶力、意思決定能力などが低下します。「一過性ですが、軽度の認知症に似た状態です」とまでふみ込んで説明することもあります。

うつ病の治療は、過度に使い込まれ一時的に機能が低下した脳や神経を、本人と周囲が協力して、数カ月から数年かけて回復させるプロジェクトであると言えます。症状が強い期間は、休養と抗うつ薬の服用が重要です。症状が軽減しはじめた段階や回復直後には、症状の再発が起こりやすいため、焦らず慎重に復帰に向けた処置を進めることが求められます。復帰直後は、自分の能力低下に対する失望感を抱くこともありますが、これは自然な反応です。本来の能力が発揮できるようになるのは、まだ先のことなのです。

回復がむずかしい患者さんや、うつ病を繰り返す患者さんも存在します。その際には、双極性障害や発達障害、PTSDなどの併存疾患が潜んでいないかを確認することが重要です。しかし、うつ病単独でも繰り返す患者さんがいます。それは「脳や神経に無理な負担をかける生き方が習慣化しており、それが修正できない」場合です。

昼夜逆転や極端に短い睡眠時間、アルコールなどの物質乱用など、生活習慣が乱れている場合、脳や神経に継続的な負担がかかり、回復が困難になります。

いわゆる「よい人」「頑張り続ける人」が注意すべきなのは、上述のような理由からです。「自分が休んで周囲に迷惑をかけていること」「病気によって弱くなった自分」を受け入れられない場合、再発しやすい行動を選びがちです。したがって、うつ病の治療では、周囲が患者さんに対して「無理をしなくてもよい」と安心させる環境を整えることが望ましいのです。それでも納得せずに、自分に過酷なプレッシャーをかけ続ける患者さんもいます。そもそも「つらい」感覚や感情を抱かないようになっている患者さんもいます。そのような場合には、幼少期からの生い立ちまでさかのぼって考える、精神療法的なアプローチが必要かもしれません。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[併存疾患生活習慣の乱れ

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