株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

特集:非専門医のための認知症診療―どこまで診てどこから紹介するか

No.5238 (2024年09月14日発行) P.18

林 誠也 (さんむ医療センター総合診療科医長)

登録日: 2024-09-13

最終更新日: 2024-09-11

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


2013年日本医科大学医学部卒業。太田西ノ内病院で初期研修,勤医協中央病院で後期研修を経て2022年から現職。

1 スクリーニング

  • 家族などの客観的な目で見て本人の様子がおかしくなっていないか。
  • 疑った場合はMini-Cogを用いて積極的なスクリーニングを行う。

2 認知症の鑑別疾患

  • うつ病との鑑別が難しい。疑った場合はPHQ-2,GDS-5でスクリーニング。
  • 肝機能,腎機能,血糖値に加え,甲状腺機能,ビタミンB12値を測定。
  • 脳外科疾患除外のため,一度は画像評価をお勧めする。

3 認知症の診断

  • アルツハイマー型認知症(AD)は他疾患の除外が重要。
  • ADは,HDS-R/MMSEでは時間の見当識,遅延再生が障害される。
  • レビー小体型認知症(DLB)では以下に注目する。❶認知機能の変動,❷幻視,❸レム睡眠行動障害,❹パーキンソン症候群

4 ADの中核症状に対する治療

  • コリンエステラーゼ阻害薬(AChEI),メマンチンの治療効果のエビデンスは限定的。

5 認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する治療

  • 興奮などの症状には抑肝散使用を検討。
  • 抗精神病薬は,効果はあるが死亡率上昇もあるので慎重な使用が必要。
  • アパシーなどの陰性症状に関して薬剤治療のエビデンスは乏しい。
  • 睡眠障害に対してはトラゾドン,オレキシン受容体拮抗薬が使用しやすい。

6 AD以外に対する治療

  • DLBに対するAChEIのエビデンスは限定的。
  • パーキンソニズムに対してはレボドパ製剤を使用。
  • 脳血管性認知症で無症候性の脳梗塞の場合は抗血栓薬の使用は推奨されない。

7 認知症終末期のケア

  • 予後不良因子として栄養状態や食事摂取量の減少が関連。
  • 人工栄養による予後延長のエビデンスはないが十分なディスカッションが必要。

はじめに

筆者は普段千葉県の山武市という医師少数地域で総合診療医として外来,病棟,在宅診療に携わっている。その中で多くの認知症患者の診療に関わる機会があるが,地域の医療リソースから考えて,すべての認知症患者を精神科へ紹介するのは非現実的と感じている。また近年の高齢患者は認知症などの精神疾患だけでなく,内科・外科・整形疾患など,多疾患が併存していることがあたりまえになってきている。現代ではそれら疾患への包括的な視点でのケアが求められ,地域のプライマリ・ケアに従事している先生方にその役割が期待されている。

一方で,認知症診療についての体系的な教育は,卒前・卒後教育は十分と言えず,たとえば内科疾患による認知機能の低下と誤診してしまったり,本来は精神科に紹介すべき困難な認知症患者を無理に抱えてしまったりしている先生方も多いのではないかと推察される。そこで今回,筆者が総合診療医の視点から「認知症患者をプライマリ・ケア医がどこまで診てどこから紹介するのか?」について解説する。

1 スクリーニング

(1)どんなときにスクリーニングを行うのか?

認知症の特徴(特にアルツハイマー型)として,患者自身は認知症である自覚があまりないことが多い。診察室でも本人は認知症ではないように取り繕うため,認知症かどうか一見わかりにくい。そのため,家族などの介護者からの情報が有力になってくる。外来では1人で通院している高齢患者も多いと思われるが,年1回程度は家族とコンタクトを取り,普段の生活で気になることがないか聞き取りしたほうがよい。

また,本人へのアプローチとしては「どうやって病院にいらっしゃっていますか?」と聞くようにしている。もし自分で運転している場合は,事故など運転に不安なことがなかったか,バスなど公共交通機関を利用している場合は,金銭の管理ができているかなどを確認している。

そういったやりとりの中で,少しでもおかしいなと感じたときに「ご年齢のこともあるので一度認知症のテストをしてみませんか?」と促して,スクリーニングにつなげる場合が多い。

(2)Mini-Cog

上記のような認知症を疑ったタイミングで,最初に簡単に行えるスクリーニングツールとしてMini-Cog(mini-cognitive assessment instrument)がある。Mini-Cogは3語の遅延再生と時計描画を組み合わせたスクリーニング検査である1)。Mini-Cogは2点以下が認知症疑いで感度76~99%,特異度83~93%2)である。

Mini-Cogの具体的な検査方法としては,まずそれぞれ関係性のない3つの単語を伝え,その場で3つ復唱してもらう。その後に11時10分を指す時計を描いてもらう。そして最後に,最初に伝えた3つの言葉を思い出してもらう。3つの単語を思い出せたらそれぞれ1点を与え,時計が描けたら2点を与える。5点満点中2点以下だと認知症の疑いがあるため,精査に進むこととなる(図1)。

プレミアム会員向けコンテンツです(連載の第1~3回と最新回のみ無料会員も閲覧可)
→ログインした状態で続きを読む

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top