以前は子宮頸がんワクチンと呼ばれていた、ヒトパピローマウイルス(以下、HPV)ワクチンは、2010年度に公費助成が始まり、2013年から定期接種になっている。しかし、2013年6月から、積極的な勧奨を差し控える措置がとられていた。2021年11月、専門家の評価により、積極的勧奨の差し控えを終了させることが妥当とされ、2022年4月から、他の定期接種と同様に、個別の勧奨が行われている。この8年間の勧奨の差し控えにより、接種機会を逃した女性に対して、公平な接種機会を確保する観点から、キャッチアップ接種が実施されている。これは2025年3月31日まで公費で行われるものである。
勧奨差し控えが始まった2013年度に12歳の2001年度生まれは、定期接種の期間は2017年度までであったが、定期接種であってもその間の接種はほとんど行われなかった。2018〜21年度は定期接種の対象から外れ、キャッチアップ接種が始まった2022年度には21歳を迎える世代である。勧奨が止まった2013年度は、激烈な接種後症状が副反応であるとする報道や動画が出回るなどした年であり、この世代の接種率が伸びないのは、残念であるが納得できる。この世代のみならず、期限までに3回のキャッチアップ接種をするのであれば、2024年9月末までに1回目接種を受ける必要がある。
この「9月リミット」は、関係者には広く知られており、危機感も強い。多くの自治体や大学、NPOなどで啓発活動が行われており、その報道もなされている。最新の2023年度のHPVワクチンの実施状況について、厚生労働省が各都道府県を通じて全市町村に調査を行ったところ、キャッチアップ接種数は初回が33万5110人、2回目が29万8438人、3回目が30万1035人であった。2022年度に比べると、初回接種で3万人、3回目接種で14万人の増加があり、最終年度である2024年度には、さらに多くの接種が見込まれそうだ。しかし、これはWHOが子宮頸がん排除のために設定した目標値の90%には遠く及ばない。
大阪大学の推計によると、1994〜99年度生まれの「接種世代」で71.96%あった累積接種率は、2000〜03年度生まれの「停止世代」では4.62%と激減し、2004〜09年度生まれの「個別案内世代」では28.83%、2010〜12年度生まれの「再開世代」では43.16%と回復を見せている。しかし、この回復をもってしても、WHOの目標値はおろか、「接種世代」の実績と比較しても不十分だ。特に2001〜03年度生まれは、累積接種率1〜2%と、ほとんど接種されておらず、年齢も20歳を超えているため、ワクチン効果も若年者ほどには期待できない。仮にキャッチアップ接種を続けたとしても、現実的な効果が見込める状況にはない。今後は、定期接種の接種率の向上と、「停止世代」への検診呼びかけが重要となるように思われる。
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[停止世代][キャッチアップ接種]