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【識者の眼】「救命行為とセクハラの線引きが必要である」薬師寺泰匡

薬師寺泰匡 (薬師寺慈恵病院院長)

登録日: 2024-10-07

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先日、京都の高校の男性教諭が、意識消失した女子生徒の身体に触ったということで、京都府教育庁によりセクハラがあったものと認定されていた。本人の説明によると、「心拍を確認するとしてシャツの上から2回胸を触ったり、熱を逃すとしてスカートをめくった」ということである。この行為が完全にセクハラ行為であったかどうか、そのときの様子がわからないのでなんとも言えないが、京都府教育庁としては、「女性教員に頼めばできたことで、不自然・不適切な行為であった」としている。

言わんとするところは理解するが、これを詳細の説明なしに情報発信すると、救命処置へのハードルが高くなってしまうのではないかと懸念している。たとえば、AEDを使用するために胸元をはだけさせたことについて、後に患者が「セクハラされた」と訴えた場合、それが認定されてしまいかねないという懸念を起こさないだろうか。今回の件、事前に女性養護教諭の介入もあったということで、必要不可欠な行為であったかというと、確かに医療従事者から見れば疑問はある。しかし、医療の素人が行った行為が不適切であったとして、それをもってセクハラに問われるのだとしたら、一般市民の様々な救護の場面で、やはり躊躇する気持ちが芽生えるだろう。教員にはそこまでのレベルが求められるということであれば話が別だが、あくまでも教員は教員であり医療従事者ではない。

セクハラかどうかの線引きを考えてみる。必要なく相手に触ることは性的な行動と見なされてもおかしくないのは確かである。したがって、必要性が重要なファクターである。必要というのは、代替手段ではならない状況を表す。男性教諭が、代替手段を想起できているにもかかわらず、より適切な手段を取らずに、あえて不適切な手段を取っていたのだとすれば、それはもはや必要な行為とは言えない。丁寧に事実を明らかにしてほしい。また、触れる必要があるから触れたのではなく、触れたかったので触れたということであれば、これはセクハラと認定されて然るべきだろう。こちらもやはり丁寧に事実を明らかにしてほしい。

心肺蘇生講習会をやる際に、必ず女性への対応は話題になる。院外心停止の対応において、女性はAEDをつけられる頻度が低いことが知られている1)。後にセクハラで訴えられるなどというデマも問題になっているが、実際のところ訴訟になった事案はない。しかし今回の件は、やはりセクハラで訴えられることがあるかもしれないと思わせるには十分な情報である。プライバシーを守りながらも適切に救命処置を行う方法を伝えている一方、切羽詰まった現場で完璧は求めにくい。やり方に多少不適切な部分があったとしても、とにかく胸骨圧迫とAED装着をと啓発しているのが現状である。なぜ今回セクハラに問われたのかという点を詳らかにして頂き、救命処置へのハードルが高まらないことを願うばかりである。

【文献】

1)Kiyohara K, et al:Resuscitation. 2020;150:60-4.

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[救命処置][ハードル]

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