HIV(human immunodeficiency virus)感染が成立すると自然治癒することはない。HIVが宿主のCD4陽性T細胞に感染して破壊することで宿主の細胞性免疫能が低下し,数年の経過で後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症,適切な治療が行われなければ確実に死亡する。加えてHIV感染症は,持続的ウイルス血症や腸管関連リンパ組織(gut-associated lymphoid tissue:GALT)の破綻による腸管内からのbacterial translocationを介した「慢性炎症性疾患」としての病態も持っており,脳血管疾患や悪性腫瘍の発症率上昇,認知機能低下と関連することも明らかになっている。
HIVスクリーニング検査(第4世代抗原抗体検査)を行う。陽性であれば確認検査(IC法による抗体検査)を行い,確認検査が陽性であれば診断が確定する1)。ただし,感染後数週以内の急性HIV感染症の場合には,確認検査は通常陰性~判定保留となるため,積極的に疑う場合にはPCR法を行うべきである。スクリーニング検査は曝露後中央値18日で陽性となるが,感染者の99%が陽性になるのに44.3日を要する2)ため,検査結果が陰性であっても曝露後2カ月時点での再検査が推奨される。
治療の目標は,抗ウイルス治療(anti-retroviral therapy:ART)により,血中のウイルス量を検出限界未満(<20 copies/mL)まで減少させることである。
治療成功の鍵を握るのは患者の服薬アドヒアランスである。アドヒアランス不良の場合,ウイルスの複製過程で生じる変異によってART薬への耐性を獲得するリスクが高くなり,最終的に治療失敗につながる。
最近の治療薬の進歩としては,注射剤の登場を挙げることができる。注射剤は1~2カ月に1回の筋注投与で治療が可能であり,毎日の服薬から解放される点で画期的であると言える。しかしながら,治療効果は経口薬と同等である一方,原因不明の治療失敗が年間1%程度で発生し,多くの耐性変異を獲得してしまうことが知られている。したがって筆者は,現時点では注射剤による治療は基本的には選択していない。メンタルヘルスの観点から,注射剤のメリットが非常に大きいと思われる患者に対して検討されるべき治療であると考えている。
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