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徘徊する認知症患者を守る[先生、ご存知ですか(82)]

No.5253 (2024年12月28日発行) P.70

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2024-12-29

最終更新日: 2024-12-20

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約2万人の行方不明者

2023年の警察庁の統計によると、認知症やその疑いで行方不明となり捜索願が出された人は1万9039人にも上りました。2012年の統計開始から11年連続で増加しており、過去最多となりました。70歳代は6838人、80歳以上が1万1124人でした。このうち、96%は生存した状態で発見されましたが、3%は死亡していました。この死亡者の数も、年々増加しています。

屋外で高齢者が倒れているのが発見され、その後に死亡が確認される例に遭遇することがあります。このような例では、ひき逃げや暴行など、何らかの事件に巻き込まれている可能性が否定できないため、ほとんどが法医解剖となります。

徘徊して死亡した認知症患者を対象にした調査では、死因の多くは低体温症や溺水でした。すなわち、冬季に徘徊した高齢者が、そのまま倒れこみ低体温症となって死亡したり、徘徊中に誤って水路や川に転落して溺死したりしています。このほか、深夜に路上中央を歩行して交通事故に遭遇、あるいは夏季に徘徊を続けて熱中症や脱水症で死亡、などの事例もあります。今後、高齢化が進むわが国では、徘徊する高齢者を守る対策が必要です。

対策していても……

認知症やその疑いで行方不明となり、残念ながら死亡した方の家族を対象にした調査がありました。その中で、以前に行方不明になったことがあるか否かについて尋ねたところ、42.7%で過去に同様の事象があったことがわかりました。さらに、同程度の42.6%は初めての行方不明で死亡していました。徘徊などを考えて、何らかの行方不明対策をとっていた家族は75.4%にも上っていたにもかかわらず、死を防げなかったことは残念です。

筆者が経験した事例を紹介します。認知症の高齢者の徘徊対策として、高齢者の靴にGPSを装着している家庭がありました。ある日、高齢者の姿を見かけないことから家族がGPSを確認すると、自宅近くにいることがわかりました。その場所に向かうと、水路の中で倒れており、残念ながらまもなく死亡が確認されました。このように、溺水、転落、交通事故などでは、早く居場所がわかっても死を避けられないことが多いです。

家族だけでは限界

ある地域で行方不明になった徘徊高齢者を対象にした調査では、世帯構成として高齢者のみの世帯が41.9%、高齢者以外の同居者がいる世帯が37.0%を占めていました。高齢者以外の同居者がいても、日中には何らかの職務に就いていることもあり、常に見守ることは困難です。行方不明者が発見される場所は、自宅近くあるいは平素から通っている場所といった、普段移動できる範囲が40%を占めていました。したがって、地域で高齢者を見守ることが必要です。

国民の多くは、夜間に子どもが1人でいるのを見かけると、すぐに保護しなければならないと感じると思います。約2万人の認知症高齢者が徘徊する現状では、道で座り込んだり、倒れているのを発見されて保護される例がありますが、夜間に1人でいる高齢者、普段人通りが少ないところを歩く高齢者を見かけた際には、積極的に声かけをする必要があるでしょう。地域で認知症高齢者を守らなければなりません。

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