季節性インフルエンザが猛威を奮っている。著者が1月5日に務めた救急当直では、発熱を主訴に来院した患者の9割以上がインフルエンザA型感染症であった。親族の集まりをきっかけに次々と発熱し、最終的に集団のほぼ全員が感染したというエピソードは多くの患者に共通し、感染性の強さをうかがわせる。
国立感染症研究所の発表するインフルエンザ流行レベルマップによると、2024年11月11日の週から徐々に、各県の注意報数や警報数が増えはじめ、その2週間後から一気に日本中に拡大していることがわかる。最新の発表によれば、1月1週目の患者数は年末に比べて減少したものの、定点医療機関の受診者数は14万人以上に上り、定点医療機関以外の医療機関を含む全国の医療機関を受診した患者数は約110.4万人と推定されている。年末年始の親族の集まりによる感染の波は既に去ったと考えられるが、新年会や成人の集いなどもあり、さらなる感染拡大に注意が必要である。
場合によっては抗ウイルス薬や解熱剤を使用することもあるが、インフルエンザに感染しても基本的には休息によって体力を回復させ、症状の改善を待てばよい。しかし高齢者や慢性呼吸器疾患/慢性心疾患、糖尿病などの代謝性疾患、腎機能障害などがある人は、原疾患の増悪や肺炎など合併症のリスクが高まり、入院や死亡の危険が増加する。また、小児では、中耳炎の合併や熱性痙攣、気管支喘息を誘発することもあり、注意を要する。
リハビリテーションの観点からも季節性インフルエンザは侮れない。廃用症候群(身体活動の低下により筋力や心肺機能が衰える状態)をきたす可能性があるからである。新型コロナウイルス感染症の罹患後症状は10〜20%の人に発生するとされ、疲労感、倦怠感、筋肉痛、咳、息切れ、脱毛、記憶障害、集中力低下、抑うつ、動悸、筋力低下などがみられることが知られている。
インフルエンザで同様の症状がみられることは非常に少ないが、リハビリテーションを行っている人は既に何らかの機能低下や障害を有している人が多く、特に75歳以上の高齢者において季節性インフルエンザの感染を契機に心身機能が急激に悪化し、日常生活能力が著明に低下する人は少なくない。感染症罹患前の状態に復帰するのに数カ月~半年以上を要する場合もあり、特に認知機能や精神機能の低下は回復が難しいので要注意だ。
高齢者の場合は、感染症状が落ち着いたら不必要な安静は避け、症状に応じて感染前の生活を可能な限り維持することが肝要だ。また感染前にフレイルの状態にあると、感染を契機に一気に要介護状態になりかねない。適切な感染予防に務めるとともに、日頃から体力をつけ、短期間の低活動程度で廃用しないような心身の構築が大切である。
大沢愛子(国立長寿医療研究センターリハビリテーション科医長)[リハビリテーション][季節性インフルエンザ]