藤田哲朗 (医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長)
登録日: 2025-02-25
2024年の秋、外部委託していた病院給食を直営に切り替えるという出来事がありました。委託先企業が給食事業から完全撤退したためです。9月30日付の契約解除の申し出が8月5日にあり、急ぎ新たな委託先を探しましたが、正味1カ月ほどの準備期間で引き受けてくれるほど人的余裕のある企業があるわけもなく……お盆明けには「委託での給食継続は不可能」という判断を下さざるをえませんでした。
弊社グループのサービス付き高齢者向け住宅や老人保健施設に完全調理済み品(調理が完了した食材を冷凍やチルド状態で提供する食品。施設側での調理の手間を省くことができる。)を用いた給食提供をしている事業所があったことから、メーカーからのアドバイスも受け、最終的には『完全調理済み品を活用した直営での給食提供』に方針転換。病院は治療に関連して様々な食形態や治療食等を展開する必要があることから、当院管理栄養士には短時間でかなりの苦労をしてもらいながら切り替えの準備をすることになりました。
幸いにも、厨房スタッフもなんとか確保でき、一食たりとも途切れることなく給食を提供し続けることができました。これまで長きにわたって、給食は外注が当然だった当院にとってかなり大きな変化でしたが、『患者さんの給食を途切れさせない』という大目的のもと、なんとか移行期を乗り越えることができました。
病院経営を取り巻く環境が厳しさを増す中、給食部門のあり方もまた、変化の波にさらされています。これまで外部委託が主流だった病院給食ですが、近年の労働人口の減少やそれに伴う人件費の高騰のため、委託業者の撤退が増えていると聞きます。最近では済生会横浜市東部病院(562床)が全面委託から内製化に切り替えるというニュースも目にしました。
石破政権は『2020年代に最低賃金1500円』を目標に掲げています。人件費が上がれば委託費も上がり、それに伴って消費税も増えていきますから、消費税が損税になってしまう医療機関にとってはダブルパンチになります。この点では直営化のメリットは確かにあり、外部委託費に含まれる委託先の管理費や厨房スタッフの人件費相当分にかかる消費税を削減でき、ここで浮いたコストを食材費の高騰分や厨房スタッフの賃上げ分に充てることができます。病院の懐事情は厳しい状況が続いていますが、限られた予算の中で質を上げる方法の1つと考えてもいいように思います。
給食以外でも日常清掃や施設管理といった労働集約的な業務は外注している病院がほとんどです。しかし、こういった業務が低コストで外注できていたのは「社会全体で労働者が余っている」「良質な労働者が低賃金で確保できる」というデフレ経済下の“あだ花”だったと見たほうがよいでしょう。もちろんこれらの業務の中には引き続き専門業者にお願いすべき専門性が高い部分もありますが、なんでも外注すればよい、という時代は転換点が近づいているように感じます。
藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長)[病院経営][病院給食][業務委託]