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【識者の眼】「保健『指導』という言葉について考える」八谷 寛

八谷 寛 (名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学分野教授)

登録日: 2025-02-28

最終更新日: 2025-02-28

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筆者は現所属機関において、学部教育に関する委員会の責任者を務めているが、前任校の医学部では学生指導に関する委員会の責任者の役を与えられていた。学生の生活面での規律遵守などについて、まさに指導や管理、時にはハンナ・アーレントの言う「生真面目」な指導を行い、学生からは疎まれていたであろう。

「指導」という言葉は、このように「正しい方向や目標に教えて導く」「誤りを正す」といった意味をもつ用語だが、画一的な印象を与える。「指導」の語はあらゆる分野で多用され、たとえば、学校教育分野での学習指導要領は、学校教育の理念を実現するための教育課程の基準を定めたものとなっている。また、私が専門とする公衆衛生、生活習慣病(生活習慣が外部環境要因や遺伝要因とともにその発症・進行に関与する疾病)領域では、保健指導という用語が日常的に使用されている。そもそも保健師とは保健師助産師看護師法において、保健師の名称で保健指導を業とする者と定義づけられており、その根幹をなす概念と言える。

一方、学校教育の現場では「指導」を「支援」に置き換える傾向があるというが、「保健指導」について医学・公衆衛生学の領域で明確な議論は、筆者の知る限りない。しかし、保健指導を受ける立場からは、あたかも自身の誤りを正されるための指導に従順に従うべきものと映るかもしれない。

2023年度まで用いられていた特定健診の標準的質問票における「生活習慣の改善について保健指導を受ける機会があれば、利用しますか」という設問が、2024年度から「生活習慣の改善について、これまでに特定保健指導を受けたことがありますか」に変更となった。これは、他にも複数の理由はあるが、誤りを正されてみたいかという問いかけに対する心理的抵抗感を軽減する上でもよかったと思う。

「生活習慣病」の予防において「保健指導」はきわめて重要な要素であると考えるが、健康日本21(第三次)で謳われている「誰一人取り残さない」対策をさらに推し進めるためには、保健指導の用語についての検討も必要かもしれない。

八谷 寛(名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学分野教授)[公衆衛生][生活習慣保健指導

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