切除不能膵癌に対しては,ゲムシタビン単剤よりも優れた延命効果を示したゲムシタビン+ナブパクリタキセルやFOLFIRINOXなどの多剤併用療法が日常診療で広く使用されはじめています。しかし,これらの併用療法には高い効果が期待される反面,副作用が強く現れやすいため,慎重な患者選択と適切な副作用対策が必要になります。特にFOLFIRINOXは,日本人を対象にした治験で22.2%にFNが認められたため,骨髄抑制や感染への注意が必要です。
G-CSFの使用には一次・二次予防的投与,治療的投与などがあり,詳細については米国臨床腫瘍学会(A-merican Society of Clinical Oncology:ASCO),European Organisation for Research and Treatment of Cancer(EORTC),National Comprehensive Cancer Network(NCCN),日本癌治療学会などのガイドラインをご覧頂きたいと思いますが,今回は一次予防的投与(1コース目からFNを予防する目的でG-CSFを投与すること)について回答したいと思います。
G-CSFの一次予防的投与によりFN発症率が有意に低下することは既に多くの癌腫でのランダム化比較試験により証明されており,前述した各種ガイドラインにおいても,「FNの発症率が20%以上のレジメンを使用する際にはG-CSFの一次予防的投与を行うことが推奨」されています。
FNへの効果はG-CSFの種類によらず一貫していることが示されていますが,FOLFIRINOXは外来にて2週間おきに投与するレジメンのため,通院回数負担軽減の観点から1サイクル当たり1回の皮下投与で済むペグフィルグラスチムが適していると思われます。進行大腸癌を対象にした2つのランダム化比較試験において2週間サイクルの化学療法〔FOLFOX(5-FU+l-LV+L-OHP)or FOLFIRI(5-FU+l-LV+CPT-11)+ペグフィルグラスチム〕の安全性,有効性が報告されたことから,FOLFIRINOXへの応用は可能と考えますが,ペグフィルグラスチムの添付文書に「がん化学療法剤の投与開始14日前から投与終了後24時間以内に本剤を投与した場合の安全性は確立していない」と記載されている点に留意が必要です。
以上より,わが国において20%を超えるFNが報告されたFOLFIRINOXに関しては,より安全に化学療法を実施するためにG-CSFを一次予防的に使用することがガイドライン上推奨されており,特にペグフィルグラスチムが薬価収載された現在,日常臨床への応用が注目されています。しかし,実際の使用はG-CSFを併用することのデメリットである,副作用増加(主な副作用は骨痛,関節痛,肝障害,発熱など),通院回数増加,治療費用の増加なども考慮する必要があるため,当センターは現時点では,G-CSFの一次予防的投与をFOLFI
RINOXのルーチンとはしておりません。
より適したG-CSFの一次予防的投与を可能にするためには,FN発症や重症化のリスク因子を明らかにすることが重要であり,これまでの研究では,高齢(65歳以上),performance status(PS)不良,化学療法施行歴などが一般的なFN発症のリスク因子として指摘されています。膵癌に対するFOLFIRINOXに関しては,今後,UGT1A1遺伝子多型や胆管ステントなどの特有の因子も含めた解析が必要と考えます。
当センターでは現在,FOLFIRINOX+ペグフィルグラスチム併用療法の安全性と効果を調べる臨床試験を行っており,今後,これらのデータの積み重ねにより,日常臨床で最適な集団に対するG-CSFの一次予防的投与が行えるようになるのではないかと期待しています。