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在宅医療で平穏死を支えるための工夫【本人および家族にもケアを行い,医療者が「看取り」を知ることが大切】

No.4785 (2016年01月09日発行) P.56

吉澤明孝 (要町病院副院長)

登録日: 2016-01-09

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

がん患者が病院で看取られる場合と在宅医療で看取られる場合の違い,在宅医療での平穏死を支えるための工夫について,特に終末期せん妄に代表される意識障害の頻度の違いの有無,病院との対応の違いについて,要町病院・吉澤明孝先生にアドバイスをお願いします。
【質問者】
山田陽介:東京都保健医療公社豊島病院緩和ケア内科 医長

【A】

病院と在宅での看取りの違いを簡潔に言えば,病院は「アウェイのゲストハウスで医療者が看取る」,在宅は「ホームである自分の城で家族が看取る」ということになります。
在宅での平穏死を支える工夫は,家族ケアにあると思います。病院では,本人の症状ケアが中心になりますが,在宅ケアは「家族と楽しく過ごすことを支えるケア」です。平穏死を支えるためには,患者に行う緩和ケアの基本である傾聴,共感,手当,ユーモアを家族にも適応することです。つまり,家族の気持ちを十分に理解し(傾聴,共感),家族にも手を当て,ユーモアをもって接することです。実際には,家族の看取りへの不安に対するケアとして何度でも家族の気持ちを傾聴し,タイミングをみて死前教育を行います。これも,何度でも家族が理解し受容できるまで行うことだと思います。
終末期のせん妄も明らかに病院よりも少ないと感じますが,ないわけではありません。家族には事前にせん妄についても死前教育の中で何度でも詳細に話し,そのときの処置(与薬など)も事前に準備し指示しておきます。不安であれば,いつでも対応できる体制(電話,メール,往診,緊急入院など)をとっていることを保証することが大切です。病院では,せん妄が出ると薬剤投与が行われやすいのですが,在宅では原因の検索と環境整備などの工夫から行います。また,在宅は前述したようにホームである自分の城ですから,環境変化によるせん妄,不眠などが少ないのかもしれません。日本人は旅行に行って楽しんで帰ってきても「やっぱり家が一番いいわ」という民族ですから,ホーム(城)は最良の場となることが多いのは当然かと思います。
また入院と異なり,在宅では旅立つ過程がはっきりとみられることが多く,食事を摂らなくなり,寝ている時間が長くなること,これが「世間から身を引く」旅立ちの第一ステップです。この時期に点滴,胃瘻など経管栄養などを行うとむくみが強くなり,痰が増え逆に苦しくなります。次に,第二ステップとして,回復したかのように覚醒し家族と話したり食事を摂ったりする時期があることが多いのです。それは体に残っている最後の蛋白を燃焼させエネルギーとしてお別れを行う「最後の輝き,踏ん張り」だと思います。その頃,頬骨が浮き出るように痩せが急に目立ちます。そしてその後,点滴もしていないのに痰が絡むような喘鳴(死前喘鳴)が始まります。それは苦しくはなく,よく看護師が吸引して患者が嫌がっています。それを,私は「飛行機が滑走路を走りはじめた時期です」と家族に話をします。そして,飛行機が離陸する前に全力で直線を走るときに,顎が上がるような呼吸(下顎呼吸)がみられますが,この時期は意識が薄れ苦しくはありません。そして,旅立ってお帰りになります。
その過程を病院では点滴,薬剤で阻害していることも多く,結果としてむくみや痰も増え,逆に苦痛を与えているようにも思います。平穏死のためには,医療者が「看取り」を知ることが大切だと思います。

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