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漏斗胸の術後再発と術式選択・適応【Ravitch法とNuss法の適応を考慮し,患者に説明した上で術式を決定】

No.4787 (2016年01月23日発行) P.59

大野耕一 (大阪赤十字病院小児外科部長)

登録日: 2016-01-23

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

近年,漏斗胸に対するRavitch手術はNuss手術に凌駕されようとしていますが,Nuss手術は学童期に入るまで(6歳頃まで)は行わないほうがよい(再発が多い?)とも言われています。
(1) 6歳までにNuss手術を行った場合の再発率と,再発の場合の術式について。
(2) 漏斗胸で小児外科外来を受診する患者は,実際には3~4歳が多いと思います。Nuss手術を行うために6歳まで待つように説明するのか,それとも今すぐ実施するなら前胸部には小さな傷が入るものの,Ravitch手術もあると説明されるのでしょうか。私の場合は,そのように説明するとほとんどの場合,患者からRavitch手術を希望されます。
以上について,大阪赤十字病院・大野耕一先生のご教示をお願いします。
【質問者】
連 利博:茨城県立こども病院小児外科,副院長兼第二医療局長/小児医療がん研究センター長

【A】

漏斗胸の診療をしていると,術後の再発を経験します。術式の如何によらず,胸骨柄,胸骨体,剣状突起間の軟骨と胸骨体の骨化中心が完全に骨化するまで胸郭が変化する可能性があります(文献1)。さらに,肋軟骨の非対称な成長も思春期を過ぎるまで続くと考えられます(文献2)。また,「再発」の判定の根拠は以下の3つであると考えます。(1)患者・家族が陥凹してきたと訴える場合,(2)主治医が主観的に再発と判断する場合,(3)X線検査のindexの値から客観的に判断する場合,です。
これまでRavitch法,Nuss法とも再陥凹に関する報告が散見されますが,「再発」と診断した根拠を明らかにした上で議論する必要があります。整容性の問題では多くの場合,医師の判定は甘く,患者の判定は厳しいものです。
[1]就学前のNuss法手術と再発
「6歳までにNuss手術を行った場合の再発率」について正確な数字を示した報告はみられませんが,Nuss法の術後では8~9%で“poor result”と報告されています(文献3)。私は就学前にNuss法を行い,成長に伴って徐々に再陥凹した症例を経験しました。一方,1972~99年にRavitch法を行った60例(年齢6.0±3.8歳)のアンケート調査では,約20%弱が「不満」「大変不満」と回答しました(文献4)。また,3歳でRavitch法を行い中学生頃になって深い再陥凹をきたした症例も経験しました。
私は再発した患者に対して,術前と同様に保存的治療や吸引療法を説明しています。多くの患者は「痛い手術を2度も受けたくない」と考えていますが,再手術を決断する患者もいます。Nuss法,Ravitch法とも再発例にNuss法を行った報告が多いようです(文献5~8)。Ravitch法は基本的に胸膜外アプローチで行いますし,Nuss法術後でも鉗子で剥離することで再度バーを通すことは可能です。もちろん,初回手術より肺損傷,気胸,出血などのリスクが高いことを説明する必要があります。
[2]手術年齢とその説明
3~4歳で来院した漏斗胸患者の家族の多くは就学後の精神的影響や「いじめ」を心配して早期の手術を希望する場合もありますが,前述の経験から就学前の手術は勧めていません。多くの場合,心肺機能に影響がないことを説明し,患児の理解が得られる年齢になったら漏斗胸体操,姿勢の矯正を指導して体幹を鍛えるスポーツを勧めています。吸引療法も希望があれば行っています。
Nuss法の初回手術の年齢について,Nussらは当初6~12歳としていましたが(文献9) ,その後“just before puberty”と変更しています(文献10) 。私は9~10歳になって患者自身も手術を希望する場合,Nuss法とRavitch法を説明した上で術式を決定していますが,ほとんどの方がNuss法を希望されます。3~4歳で手術を強く希望する家族には術後も成長に伴って胸郭形態が変化する可能性があり,身長の伸びが止まるまで観察する必要があることを話す必要があります。

【文献】


1) 黒川正人, 他:形成外科. 2005;48(7):779-85.
2) Ishimaru T, et al:J Pediatr Surg. 2009;44(8):E13-6.
3) Croitoru DP, et al:J Pediatr Surg. 2002;37(3):437-45.
4) 大野耕一, 他:小児外科. 2007;39(4):404-5.
5) 黒川正人, 他:形成外科. 2003;46(11):1139-46.
6) 植村貞繁, 他:小児外科. 2005;37(9):1028-33.
7) 野口昌彦:PEPARS. 2013;74:56-66.
8) 佐々木 了, 他:医事新報. 2014;4717:62.
9) Nuss D, et al:J Pediatr Surg. 1998;33(4):545-52.
10) Nuss D:Semin Pediatr Surg. 2008;17(3):209-17.

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