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化学療法によるB型肝炎再活性化の対策【化学療法開始前に全例のHBs抗原を測定し,陽性例には抗ウイルス薬を予防投与】

No.4794 (2016年03月12日発行) P.53

池田公史 (国立がん研究センター東病院肝胆膵内科科長)

登録日: 2016-03-12

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)感染者(既往感染を含む)に化学療法を行う際に,HBVが再活性化し,時に劇症化することが知られています。膵癌でも最近は多剤併用療法によって強い骨髄抑制を経験することがあり,HBVの再活性化にはよりいっそうの注意が必要と考えています。化学療法によるB型肝炎再活性化の対策について,国立がん研究センター東病院・池田公史先生のご教示をお願いします。
【質問者】
上野秀樹:国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科医長

【A】

HBVの再活性化は,キャリア/慢性肝炎と言われるHBs抗原陽性の患者のみでなく,一過性感染してHBVは排除されたと以前は考えられていたHBs抗原陰性でHBc抗体またはHBs抗体陽性の患者においても,HBV再活性化のリスクがあると言われています。それは,HBVはいったん感染すると,肝臓や末梢血単核球中に低レベルながら残存し,HBV DNAの複製を繰り返しているからです。通常は,自分の免疫機能が働き,抑制できているのですが,化学療法を行うと免疫機能が低下し,HBVを抑制することができなくなり,急激にHBVが増殖します。これを「HBVの再活性化」と言います。
このHBV再活性化の対策としては,化学療法の開始前に,スクリーニング検査として全例のHBs抗原を測定し,HBV再活性化の高リスク群を同定します。HBs抗原陽性の場合は,HBe抗原,HBe抗体,HBV DNA定量を測定し,治療前のHBVの状態を確認した上で,抗ウイルス薬の予防投与を行います。予防投与すべき抗ウイルス薬としては,エンテカビルまたはテノホビルが推奨されています。
HBs抗原陰性であった場合は,HBc抗体とHBs抗体を追加測定し,HBV感染歴があるかどうかを確認します。どちらかが陽性であれば,HBV感染歴があると考え,HBV DNAの定量測定を行います。この時点でHBV DNAが陽性であれば,HBVが体内に大量に存在しているということですので,HBs抗原陽性の場合と同様に,エンテカビルまたはテノホビルなどの抗ウイルス薬の予防投与を行います。HBV DNAが陰性(検出感度以下)であれば,HBVはあまり増殖していないということですので,HBV DNAを1~3カ月ごとにモニタリングします。そのモニタリングで,HBV DNAが検出感度以上まで上昇したらHBVが増殖してきているということですので,抗ウイルス薬の投与を開始します。
HBs抗原陰性で,HBc抗体とHBs抗体がともに陰性であれば,再活性化のリスクはないと判断して,定期的なHBV DNAの経過観察は必要ないとされています。
わが国での化学療法施行例におけるHBs抗原陽性の割合は1~3%,HBs抗体またはHBc抗体陽性の割合は20~30%前後と報告されています。要するに,4~5人に1人はHBVの感染歴がある患者ですので,HBV再活性化のリスクがあります。したがって,これらの患者においては化学療法施行時,特に多剤併用療法によって強い骨髄抑制をきたすような場合に,HBV再活性化が起こりうることを念頭に置いて,きちんと対応することが重要です。

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