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H. Pyloriは口移しで感染するか

No.4729 (2014年12月13日発行) P.53

奥田真珠美 (兵庫医科大学地域総合医療学准教授/兵庫医科大学ささやま医療センター小児科)

登録日: 2014-12-13

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

Helicobacter pylori(H. pylori)について,口移しで感染すると聞いたことがある。個人的には大半の口移しでは感染しないと考えているが,胃内に存在するH. pyloriが口移しで感染することはあるのか。たとえば,嘔吐物を介する場合はどうか。この点に関して専門家の見解を。
(青森県 K)

【A】

H. pyloriが経口感染することは一致した見解であるが,どのようにして感染するかは謎である。初感染の多くは乳幼児期であるが,無症状あるいは症状を訴えることがないため初感染時を把握することができず,感染経路や感染様式の解明をさらに困難にしている。
口移しによる感染(口─口感染)は想定されているが,十分な検討はされていない。筆者らは生後8カ月の時点で「離乳食を保護者が噛んで与えるかどうか」と便中H. pylori抗原の有無について調査したが,噛んで与えると答えた48名中の便中抗原陽性は5名10.4%,しないと答えた141名中の陽性は4名2.8%であった。さらにH. pylori感染予防として1カ月検診時に「離乳食を噛んで与えないように」とお願いし,生後12カ月まで100名を追跡調査したが感染成立したものはなく,「離乳食の口移し」をやめることで感染の一部を予防できる可能性が示唆された。
疫学研究では,母にH. pylori感染があると子どもの感染率は有意に高くなり,多変量解析では母の悪心・嘔吐が頻繁であると調整オッズ比が15.3となることが報告されている(文献1)。また家族の胃腸炎症状が感染のリスクとなるかどうかの検討では,非感染者1752名を1年間追跡したところ,30名がH. pylori感染し,新たに感染した多くは2歳未満の乳幼児で感染率は21%/年であった。感染している家族が嘔吐を伴う胃腸炎であるとオッズ比は6.3で,下痢だけの症状では3.0であった(文献2)。
Parsonnetらは16名の無症状の感染者を対象とし,下剤,催吐剤投与前後の便,唾液,嘔吐物のH. pylori培養を行った(文献3)。投与前の唾液からは少量のH. pylori〔18.8%(3/16)〕が培養されたが,催吐剤で嘔吐後の唾液からは56.3%と高率に培養でき,下痢便からも培養が可能であったと報告している。
これらのことから,感染者が特に嘔吐や逆流症状を伴う状態では口移しあるいは嘔吐物が感染源となり,胃酸分泌や免疫が未熟で,衛生観念のない2歳未満の乳幼児が初感染を受けるという家族内を中心とした感染経路が推測される。

【文献】


1) Ito LS, et al:Gastric Cancer. 2006;9(3):208-16.
2) Perry S, et al:Emerg Infect Dis. 2006;12(11): 1701-8.
3) Parsonnet J, et al:JAMA. 1999;282(23):2240-5.

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