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肝機能障害がある場合のB型肝炎ウイルス検査

No.4767 (2015年09月05日発行) P.63

西原利治 (高知大学医学部消化器内科学講座教授)

登録日: 2015-09-05

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

肝機能障害がある場合のB型肝炎ウイルス検査について,下記2点を教えて下さい。
(1) 明らかな肝機能障害がある人に対してB型肝炎ウイルス検査としてHBs抗原定性を行っていますが,HBs抗原精密測定を行ったほうがよいですか。
(2) HBs抗原陰性でも,HBc抗体陽性の人では,HBs抗体の有無にかかわらず,肝臓中にごく微量のB型肝炎ウイルスが存在し続けており,核酸増幅検査(nucleic acid amplification test:NAT)により,血液中にもごく微量のB型肝炎ウイルスが検出される場合があることがわかってきたと聞きました。このような場合は,HBs抗原では判定できないと思いますが,HBs抗原が陰性なら,臨床的にはB型肝炎ウイルスが肝機能障害の原因ではないと言えますか。 (大阪府 M)

【A】

(1)HBs抗原精密測定の必要性
肝細胞がB型肝炎ウイルスに感染すると,大量のHBs抗原が血中に放出されるので,血中にHBs抗原が検出されれば「今,肝細胞がB型肝炎ウイルスに感染している」と推測することが可能です。B型肝炎ウイルスは肝発癌ウイルスとして夙に有名ですので,B型肝炎ウイルスの感染を疑った際には,できるだけ高感度のHBs抗原の測定法を用いて検査を行い,B型肝炎ウイルス感染の見落としを避けることが大切です。HBs抗原定性よりもHBs抗原精密測定のほうが高感度ですから,ALT高値の原因精査に際してはHBs抗原精密測定の利用をお勧めします。
(2)HBs抗原陰性の場合
HBs抗原が陽性と判定された多数のB型慢性肝炎の患者さんについて,年に1回定期的にHBs抗原量をHBs抗原精密測定で測り続けると,徐々にHBs抗原量が減少する患者さんを見つけることができます。昨年はHBs抗原を検出できたのに今年は検出できないという患者さんは毎年100人に1人くらいの割合で見つかり,その後,毎年検査をしてもHBs抗原を検出できない状態が続くようになります。
それまでB型慢性肝炎が続いたために肝組織には線維化や炎症像があるにもかかわらずHBs抗原が陰性となりますので,ご指摘のように血液検査だけではB型慢性肝炎を見逃す可能性はないとは言い切れません。しかし,HBs抗原精密測定でも検出できないほど血中のHBs抗原量の少ないB型慢性肝炎の患者さんのALT値は,通常,正常域です。
また,HBs抗原はウイルスがつくる蛋白ですから,ウイルスの遺伝子に突然変異が生じると,通常の測定法では検出しがたくなることもあります。この場合には,多量にB型肝炎ウイルスが存在するにもかかわらず,私たちはこのウイルスのつくるHBs抗原を検出できません。ただし,これも大変例外的です。
そこで,「HBs抗原定性検査は内視鏡検査や外科手術の術前簡易検査」として行い,「HBs抗原精密測定検査でHBs抗原を検出できなければALT高値の原因はB型肝炎ウイルスの感染の結果ではない」と割り切って頂くことがより実臨床に即していると言えます。
では,このような人から献血して頂いた血液は輸血に使えるでしょうか。ALTが異常高値を示したり,B型肝炎ウイルスの感染歴を物語るHBc抗体が高値を示す血液については,慎重な上に慎重な検討が加えられて,利用するのか,廃棄するのかが決定されます。どのような人の献血が原料になっているかを臨床の場で個々に特定することは困難ですが,作製された血液製剤は品質管理のために事後に追跡調査ができるように製品番号が付与され,何らかの不都合が生じた場合に原因検索ができるようになっています。安全対策を二重,三重に行っているとはいえ,常に例外は存在します。血液製剤は必要最小限の適正使用でお願いできれば幸いです。

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