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消費税率引き上げで益税はなくなる?

No.4787 (2016年01月23日発行) P.65

森田純弘 (森田純弘税理士事務所所長)

登録日: 2016-01-23

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

消費税率を10%に引き上げる際,たとえば生鮮食品を8%のままインボイス方式を当面見送った場合,税収が減少し事業者の利益が膨らむとの試算があります。また,今までの消費税制度でも簡易課税制度や免税制度などで消費者の支払い金が事業者の手元にとどまることがあります。
(1) 現在の益税の推定額はいくらほどか。
(2) インボイス方式を導入した場合,(1)は発生しなくなるのか。 (埼玉県 I)

【A】

ご質問のような消費税率の引き上げが行われた場合,減収ではなくむしろ国や地方団体は増収が図れます。その増収の目的で政策的に消費税率の引き上げが行われます。ただし,消費税率の引き上げは,買い控えを一時期的に生じさせる現象も起こりうるため,短期的には減収も生じる可能性があります。消費税率の引き上げは,単純に最終消費者としての立場の事業者を圧迫し,むしろ利益を減少させる可能性があります。
簡易課税制度や免税事業者(消費税の申告納税を免除される者)の存在は,確かに益税を発生させると言えます。しかしながら,この2つの制度は将来的な予測に対して正確に判断しえない限り今現在の消費税法のもとにおいては損税が生じているのも事実です。かつては,益税だけが注目されて非難を受けていましたが,消費税の改正があるたびに益税を得るのは困難となり,減少し続けています。逆に,損税の存在が大きくなり事業者の経営を圧迫しているのが現状です。このまま消費税法の根本を改正しない限り,消費税率が上昇すると益税よりも損税のほうが社会的問題です。特に,医療業界のように消費税における非課税取引の多い事業者は打撃を受けるでしょう。したがって,(1)に対する回答ですが,現在の益税の推定額の算定は不可能であり,むしろ損税の問題が重要だと思います。
ところで,今現在の消費税の課税方式は帳簿方式と言われるものです。インボイス方式に相対する課税方式が帳簿方式です。現行制度での益税は帳簿方式が問題となっているのではありません。帳簿方式を採用していても,益税を減らすことはできます。逆にインボイス方式を採用すると,偽インボイスの作成の容易性から税収の漏れの拡大が予想されます。また,インボイス方式を採用しても今の簡易課税制度や免税事業者のように強引な特例の創設がなされたならば,違う角度で同様な益税や損税が発生する可能性があります。
したがって,(2)に対する回答としては,インボイスを導入した場合でも益税が発生しなくなるとは言えず,導入するにあたっては想定される高い弊害を踏まえることが大切だと考えます。

【参考】

▼ 森田純弘:法人税・消費税と資金繰り. 大蔵財務協会, 2010.
▼ 森田純弘:パターン別 消費税の仕入税額控除の有利・不利. 大蔵財務協会, 2010.

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