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当直の夜 [プラタナス]

No.4807 (2016年06月11日発行) P.1

八田和大 (天理よろづ相談所病院総合内科部長)

登録日: 2016-06-08

最終更新日: 2017-01-24

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  • 卒後1年目の夏だったから、もう30年以上前のことになる。ある当直日に、胃潰瘍で近医に通院中の40代男性が腹痛で救急に来院した。初診は1年目研修医が担当で、古くて狭い診察室で私は診察を開始した。バイタルサインはさほど問題もなく、腹部所見もそう異常はなかったが、腹痛はかなり強そうであった。研修を開始して3カ月が過ぎ自分の判断で患者を帰宅させることもあったが、この患者には「ちょっとおかしい」と感じ、上級医をコールした。後期研修当直はチーフレジデントであった。まず既往歴より胃潰瘍による消化管出血と考え胃洗浄を施行したが、血性のものは引けなかった。当時、夜間の各専門科のコンサルトの敷居は高く、腹部超音波検査もよほどでないとできなかった。何もない可能性もあるが、“何となくルックスが悪い”ので、とりあえず入院してもらうことにした。深夜、「痛みが強くて我慢できない」とコールがあった。患者は冷汗を伴い苦悶様、血圧は75/40mmHgと低かった。診ている間に60mmHgまで低下した。腹膜刺激徴候も出現し、原因は不明だが急性腹症であると判断。外科系の当直医が消化器外科医だったため、すぐコンサルトして緊急で開腹手術となった。

    腹腔内には多量の血塊を認め、4000mLの血液を吸引できた。肝両葉に多数の腫瘤があり、出血源は肝左葉の鶏卵大の腫瘤であった。腫瘤は硬く、肝癌と考えられた。「救急外来から帰宅させなくてよかった」と2人で安堵した。

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