医師になって3年目、自治医大出身だったため、私は天竜川奥の静岡県佐久間町の小病院で勤務していた。医師は、名誉院長、院長そして「ヒラ」の私の3名だけである。「僻地で役に立つ医者になりたい」というのが私の願いだったから初期研修では一応、全科をローテートしていた。
当時はネットなんて便利なものはなかったから、わからないことがあると初期研修した静岡の病院の先輩医師に電話で尋ねていた。画像の相談などは無論できない。
ある日、肩が痛いという婦人が受診した。X線を撮ったところ、上腕骨骨幹部に骨膜反応のような像が見えるではないか。
「Ewing sarcoma?」「骨転移?」など最悪の事態が頭をよぎり、豊橋市民病院整形外科に「どや顔」で紹介した。佐久間から飯田線の電車を利用して片道2時間位はかかる。
戻ってきた返事は「これは三角筋粗面といって、正常所見です」であった。解剖書を見れば一目瞭然であったのに、こんなことで患者さんを往復4時間もかけて紹介してしまったのである。医者が知識のないことはつくづく恐ろしいことだと思った。
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