欧米では,原発性乳癌のうち,少なくとも5~10%は遺伝性と言われており,その主な原因遺伝子としてBRCA1/2の病的変異が報告されてきた。わが国では,BRCA1/2の遺伝子検査が保険適用でないため20~30万円の個人負担となり,遺伝カウンセリングまでは受けたとしても遺伝子検査を受ける人は少なく,その実態が明らかでなかった。
そこで,2011年度から2年にわたり日本乳癌学会班研究が行われた。遺伝子検査を受けた260名の乳癌患者の中で,BRCA1,2ともに陽性の人が1名いたため,その人は除外した。BRCA1陽性は46名(17.3%),BRCA2陽性は35名(13.1%)で,合わせて30.3%に病的変異を認めた(文献1)。
また,欧米の報告と同様に,BRCA1陽性の62.2 %が,女性ホルモンの感受性がなくHER2の過剰発現もないトリプルネガティブ乳癌であった。今後はさらなるデータ蓄積のもとに,日本人における遺伝性乳癌のリスクを予測するモデルを作成することが望まれる。
本領域はBRCA検査に始まり,MRI検診,卵巣・卵管や乳房のリスク低減切除手術などが,保険適用ではないことが欧米に比べて著しく診療水準の遅滞をもたらした。したがって,まず先進医療への道を開き,わが国としてのデータを集め,効用が明確化されたものから順次保険適用をめざしている。
1) Nakamura S, et al:Breast Cancer. 2013 Nov 19. [Epub ahead of print]