従来,乳癌術後の補助療法を考える場合は,腋窩リンパ節転移などの病期をもとに治療方針が立てられてきた。しかし,DNAチップが安価になったことから,乳癌のDNAを調べると,いくつかの異なるパターンに分類できることが判明した。この分類により予後が明瞭にわかれるのみならず,薬剤に対する感受性も異なる。そこで,今では乳癌の治療戦略を考える場合は,まず最初にDNAによるサブタイプ分類を考慮し,次に病期を加えて治療戦略を立てるようになった。しかし,すべての症例にDNA解析を行うのは手間がかかるため,エストロゲン受容体(ER),プロゲステロン受容体(PR),HER2受容体,Ki-67などを免疫染色した結果を組み合わせることで,現在はLuminal A-like, Luminal B-like, HER2-like, Triple negativeに分類している。
Luminal Aタイプはホルモン感受性があるが,化学療法感受性は低く,予後は良い。Luminal BタイプはLuminalタイプの中では増殖活性が高く,ホルモン感受性があり,化学療法感受性もある。HER2タイプはHER2受容体の過剰発現があり,HER2シグナルに作用する分子標的治療薬が有効なタイプであると同時に,化学療法感受性もある。このタイプは,以前は予後が悪いとされていたが,トラスツズマブ(ハーセプチンR)の術後補助療法導入以来,ほかのタイプとまったく遜色のない予後を示すようになった。Triple neg-ativeタイプは最近ではさらに亜分類されているが,ホルモン療法は無効で,かつHER2作動薬も無効である。したがって,全身治療は化学療法しか適応がないが,化学療法に対する感受性についても様々なサブタイプが混在していることがわかっている。