著者は1918年生まれ。42年海軍軍医中尉として第二次世界大戦に出征。復員後、57年永井医院を開業。63年実地医家のための会、78年日本プライマリ・ケア学会設立。88年日本医師会最高優功賞受賞。
(永井友二郎 著、講談社、2006年刊)
生きとし生けるもの、例外なく死ぬことはわかっている。1945年以前、日本人の平均寿命は男性約42歳、女性約43歳であった。古代人はもっと若くして死を迎えた。
肉体の健康を条件としてのみ得られる享楽や栄華や生活が病気や死によって断たれることは、慟哭すべき悲しい出来事であったろう。幸福のことごとくを一挙に打破し去る死は、いつ忍び寄るか知れない。この不安や頼りなさを現代人より遥かに強く感じたに違いない。人々が心の平安を得るために宗教は欠くべからざるものであった。幼子がすべての悲しみを母親にすがるように、人々は石や木や山や海、太陽や月に頼った。その心情は連綿と今も日本人の心に伝わっている。
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