杉田玄白(1733〜1817)が著した『形影夜話』は、1810年(文化7年)養嗣子の伯元により上梓された。1947年に緒方富雄 訳が東京出版医学書部より出版されている。
(緒方富雄 訳注、医歯薬出版、1974年刊)
ここ10数年間にわたり、私は「蘭学事始ツアー」なる行事を主催している。『蘭学事始』に登場する前野良沢と杉田玄白のお墓にお参りし、『ターヘル・アナトミア』の翻訳事業を行うために彼らが集まった前野良沢邸のあった聖路加国際病院前、そしてこの翻訳事業の発端となった腑分け見学の地、荒川区南千住の骨が原(小塚原)刑場跡を巡る半日の散歩である。
ツアーの参加者たちに私は毎回、『蘭学事始』を読むことを勧めている。『蘭学事始』には『ターヘル・アナトミア』翻訳事業のことが生き生きと語られており、読む人をして襟を正さしめる緊張感に溢れている。明治維新前夜、友人が偶然入手したこの書の写本を読んだ福澤諭吉は、先人の労苦を偲んで感涙にむせび、1869年(明治2年)に活版印刷として公刊した。
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