1996年,堺市で発生した腸管出血性大腸菌(EHEC)感染のアウトブレイクから約20年が経過した。続発症である溶血性尿毒症症候群(HUS)が世間に認知されたが,以降もEHEC感染に併発する典型的HUS(tHUS)が毎年100例前後報告されている。小児期発症のほぼ90%がtHUSで,残りがEHEC感染に関連しない非典型HUS(aHUS)である。補体調節因子H因子異常がaHUSの病因であるとの1998年の連鎖解析による報告(文献1)以降,様々な補体調節因子異常が同定され,補体関連HUSが狭義のaHUSととらえられるに至った。
tHUSは比較的予後良好で治療の中心は支持療法であるが,補体関連HUSの予後は不良である。治療は異常因子の除去,正常補体因子の補充などを目的に積極的な血漿交換が推奨されてきたが(文献2),その治療効果も満足できるものではなかった。
2009年以降は,補体関連HUSに対する抗ヒトC5モノクローナル抗体エクリズマブの有効性が報告・集積され,補体関連HUSに対して血漿交換と並んでエクリズマブ治療が第一選択として推奨されるまでになった。これら背景のもと,わが国でも日本腎臓学会・日本小児科学会合同の委員会で「非典型溶血性尿毒症症候群 診断基準」が2013年に策定され(文献3),同年9月にaHUSに対するエクリズマブ治療が保険収載された。今後,診断基準に基づく正確な診断のもと,適切なエクリズマブ治療による本疾患予後の改善が期待される。
1) Warwicker P, et al:Kidney Int. 1998;53(4):836-44.
2) Ariceta G, et al:Pediatr Nephrol. 2009;24(4):
687-96.
3) 香美祥二, 他:日腎会誌. 2013;55(2):91-3.