著: | 前嶋明人(埼玉医科大学総合医療センター教授) |
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判型: | B5変型判 |
頁数: | 456頁 |
装丁: | カラー |
発行日: | 2023年07月23日 |
ISBN: | 978-4-7849-4714-0 |
版数: | 第2版 |
付録: | 無料の電子版が付属。巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます。 |
ガイドライン・新薬の動向を踏まえた改訂版
◆腎機能検査、糸球体疾患の分類、水電解質、酸塩基平衡・・・みんながつまずくポイントを「わかりやすさ最優先」で解説しました。腎疾患の診かたを、基礎から無理なく学べる入門書です。
◆成人の8人に1人が慢性腎臓病と言われる今、どの診療科においても腎臓病学の知識が必須となっています。これから腎臓内科をローテートする方はもちろん、腎臓病診療のエッセンスを身に付けたい他科の先生方にもお勧めします。
◆無料の電子版が付属。巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます。
第1章 腎臓の構造と機能
第2章 検査
第3章 主要症候
第4章 原発性腎疾患
第5章 続発性腎疾患
第6章 治療薬
第7章 遺伝性腎疾患
第8章 慢性腎不全
第9章 急性腎障害(AKI)
第10章 慢性腎臓病(CKD)
第11章 高齢者と腎臓
第12章 腎臓病で注意して使用すべき薬剤
第13章 透析治療
第14章 腎臓に関するよもやま話
(B5変型判カラー456ページ・電子版付き)
第1章 腎臓の構造と機能
腎臓の多彩な機能
腎臓の大きさと位置
ネフロンは尿を作る基本構造
糸球体は超小型の血液濾過装置
糸球体を構成する細胞
メサンギウム細胞は収縮能を持つ
糸球体上皮細胞は繊細で壊れやすい
糸球体基底膜は老廃物を濾過するフィルターのようなもの
尿細管は物質輸送を担う重要なシステム
必要な物質は尿細管で再吸収される
体内の水分量を一定に保つのも腎臓の仕事
体重の何パーセントが水分か?
腎臓は1日の水分バランスを精密に調節している
腎臓は内分泌臓器である
アルドステロン
心房性Na利尿ペプチド(ANP)
体液量を一定に保つシステム
GFRが低下すると尿浸透圧の調節ができなくなる
抗利尿ホルモン(ADH)
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系
レニン分泌の調節メカニズム
GFRは緻密斑によって自動調節されている
利尿薬の作用機序
第2章 検査
尿検査
尿の異常は全身の異常を反映する
尿検査からわかること
尿の色で何がわかる?
尿比重は何を反映しているのか?
早朝尿をチェックする意味
尿糖陽性と血糖値の関係
尿糖陽性=糖尿病とは限らない
尿糖(4+)なのに、血糖コントロール良好?
尿蛋白の検査法
外来で1日尿蛋白量を推定する方法
クレアチニン補正が必要な理由
微量アルブミン尿と蛋白尿の違い
試験紙で潜血陽性の意味は何か?
尿沈渣でわかること
生理的な円柱と病的な円柱
尿細管障害マーカー
尿検査のまとめ
尿所見から病気を推測してみよう
腎機能検査
クレアチニン・クリアランス
血清クレアチニンからeGFRを算出する
血清クレアチニン値が腎機能の指標になる理由
血清クレアチニン値の弱点
血中尿素窒素(BUN)
イヌリン・クリアランス
イヌリン・クリアランスの弱点
イヌリン・クリアランスとクレアチニン・クリアランスの違い
血清シスタチンC
1/Crのグラフを作ろう
レノグラムの意味
腎生検
腎生検の目的
腎生検の適応
腎生検の禁忌
腎生検前に休薬すべき薬剤
腎生検の手技
腎生検標本から何を読み取るのか
蛍光抗体法による免疫染色
わざわざ電顕で確認する理由は?
糸球体病変の観察のポイント
第3章 主要症候
腎疾患を診断されるきっかけは?
蛋白尿
蛋白尿とは何か
尿蛋白量が多いほど腎予後は悪い?
尿蛋白で血液疾患を疑うとき
尿蛋白の選択性
蛋白尿が出現する機序
生理的蛋白尿とは
糸球体性蛋白尿と尿細管性蛋白尿
定性(±)、定量3g/日の蛋白尿はどんな病態か?
血尿
血尿を診たらまず行うべきこと
腎臓のどこにも異常がない血尿
変形赤血球は何を意味するか?
ナットクラッカー症候群とは
多尿
多尿をきたす病態(糖尿病、慢性腎不全、尿崩症)
電解質異常
高カリウム血症=生命に危険を及ぼす電解質異常
高カリウム血症の原因(腎不全以外)
低カリウム血症の原因
入院患者で最も多い電解質異常は?
低ナトリウム血症は、頻度の高い原因疾患からチェックしよう
蛋白や脂質が多いときは見かけ上、低ナトリウム血症をきたしやすい
高血糖のときは低ナトリウム血症をきたしやすい
試験によく出る低ナトリウム血症
腎機能が低下すると低カルシウム血症をきたす
高齢者の高カルシウム血症に注意!
低アルブミン血症のときには、血清カルシウム濃度を補正しよう
腎機能が低下すると高リン血症をきたす
酸塩基平衡異常
腎臓による酸塩基バランスの調節
血液ガス所見の見方
第4章 原発性腎疾患
蛋白尿を指摘された症例を診たら
血尿を認める症例を診たら
腎炎ってどんな病気?
糸球体腎炎の臨床像
ネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群になるとむくみやすいのはなぜか?
ネフローゼ症候群の合併症
糸球体腎炎
糸球体腎炎の発症機序
どんなタイプの腎炎か予想しよう
腎疾患の診断に役立つ検査
糸球体腎炎の組織型
糸球体腎炎の治療と予後
急性糸球体腎炎
急性糸球体腎炎
急性糸球体腎炎の典型的な経過
腎炎で血清補体価が低下する理由
微小変化型ネフローゼ症候群
微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)
MCNS再燃のきっかけ
MCNS診断のポイント
巣状糸球体硬化症
巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)
可溶性ウロキナーゼ受容体とは
膜性腎症
膜性腎症
膜性腎症のステージ分類
膜性腎症の発症機序
IgA腎症
IgA腎症
IgA腎症の発症パターン
膜性増殖性糸球体腎炎
膜性増殖性糸球体腎炎
半月体形成性糸球体腎炎
半月体形成性糸球体腎炎
抗GBM抗体型糸球体腎炎
抗GBM抗体型糸球体腎炎
ANCA関連血管炎
ANCA関連血管炎
ANCAはどのようにして産生されるのか?
ANCA関連血管炎の多彩な症状
どのような症例でANCA関連血管炎を疑うか?
第5章 続発性腎疾患
全身性疾患と腎障害
膠原病に伴う腎疾患
膠原病に伴う腎疾患
SLEってどんな病気?
SLEの特徴的な症状
SLEの分類基準
SLEの初発症状
ループス腎炎とは
治療方針決定には組織学的評価が必要不可欠
ループス腎炎の組織学的分類
ISN/RPS分類で使われている用語の意味
治療が必要なループス腎炎はどんなタイプ?
免疫抑制療法の基本
ループス腎炎で用いられる免疫抑制薬
ループス腎炎の治療目標
強皮症に伴う腎障害
関節リウマチの診断・治療
関節リウマチ患者さんで蛋白尿を認めたら
シェーグレン症候群とは
IgG4関連疾患とは
血液疾患に伴う腎疾患
多発性骨髄腫に伴う腎障害
腎障害から多発性骨髄腫を疑うケース
腎アミロイドーシス
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
TTPの発症機序
薬剤性TMAの診断
TTPと鑑別すべき病態
TTPの治療
肥満関連腎症
肥満と腎臓病の関係
高血圧関連腎障害
腎硬化症(腎臓の動脈硬化の終末像)
悪性高血圧症
悪性高血圧は短期間のうちに末期腎不全に至る可能性が高い
腎血管性高血圧
糖尿病性腎症
新規透析導入患者の原疾患は?
糖尿病性腎症の早期診断
糖尿病性腎症の病期分類
糖尿病性腎症の臨床経過が他の腎炎と異なる点
糖尿病性腎症の治療
SGLT2阻害薬が血糖値を下げる仕組み
第6章 治療薬
腎炎の治療薬
ステロイドとは?
ステロイドの副作用;易感染性
ステロイドの副作用;ステロイド性糖尿病、体格の変化
ステロイドの副作用;ステロイド性骨粗鬆症
ステロイドの副作用;大腿骨頭壊死
ステロイドの副作用;その他の副作用
ステロイドの投与法
ステロイド離脱症候群
ステロイドは基本的に朝投与する
ステロイドの対象疾患
好酸球数からステロイドの効果を予測する
腎炎の治療に抗凝固薬、抗血小板薬を用いる理由
RAS阻害薬による腎保護メカニズム
第7章 遺伝性腎疾患
多発性嚢胞腎とは
嚢胞の大きさと腎機能の関係
多発性嚢胞腎の合併症
多発性嚢胞腎の治療
多発性嚢胞腎の予後
ファブリー病
アルポート症候群
菲薄基底膜腎症
第8章 慢性腎不全
慢性腎不全とは
慢性腎不全はなぜ悪くなる一方なのか
腎不全に伴う血清Cr値の推移
腎機能が相当悪くならないと尿毒症症状は現れない
慢性腎不全になると骨が障害される
CKD-MBDという新しい概念
慢性腎不全における血清リン濃度の推移
高リン血症の治療
腎性貧血の治療
「慢性腎不全の貧血=腎性貧血」とは限らない!!
慢性腎不全の治療目標は「現状維持」
保存期腎不全の治療
慢性腎不全の食事療法
減塩による降圧効果は本当にあるの?
保存期腎不全に対する治療の具体例
第9章 急性腎障害(AKI)
急性腎障害(AKI)とは
AKIの概念ができた背景
AKIでのGFRと血清Cr値の時間的なずれ
どのような患者さんがAKIになりやすいのか?
AKIを反映する尿中バイオマーカー
AKIの分類とその鑑別評価
AKIはどこで起こっているのか?
内因性腎毒性物質によるAKI
AKIの診断の流れ
造影剤腎症は予防するしかない
正常血圧性虚血性AKI
腎機能悪化のとらえ方
AKIの典型的なパターン
AKI鑑別診断の具体例
第10章 慢性腎臓病(CKD)
慢性腎臓病(CKD)とは
CKDの定義
CKDのステージ分類
CKD患者数はどれくらいか?
CKDの重症度分類
なぜ、いまCKDが問題になっているのか?
CKDの特徴
CKDの主な原因
CKDの治療方針
高血圧は“サイレントキラー”
高血圧の合併頻度は?
高血圧は腎機能にどの程度影響するか?
CKD患者の血圧管理
CKDを早期に見つけるには
腎臓専門医にコンサルトするタイミング
第11章 高齢者と腎臓
加齢に伴い腎機能は低下する
高齢者に多い腎疾患とは?
高齢者の腎機能評価は慎重に
高齢者でよくみる電解質異常
高齢者でみられるナトリウム異常
鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症とは?
高齢者でみられる高ナトリウム血症
高齢者でみられるカリウム異常
高齢者でみられる高カルシウム血症
第12章 腎臓病で注意して使用すべき薬剤
腎機能を正確に評価するには
腎排泄 or 肝代謝 That is the question !
尿中未変化体排泄率
蛋白結合率
薬物代謝酵素
薬物相互作用の具体例
タクロリムスの血中濃度は個人差が大きい!
TDMって何?
どのような薬剤に注意すべきか
慢性腎臓病で注意が必要な薬剤;抗菌薬
慢性腎臓病で注意が必要な薬剤;経口血糖降下薬
慢性腎臓病で注意が必要な薬剤;RAS阻害薬
慢性腎臓病で注意が必要な薬剤;NSAIDs
慢性腎臓病で注意が必要な薬剤;高尿酸血症治療薬
慢性腎臓病で注意が必要な薬剤;H2受容体拮抗薬
慢性腎臓病で注意が必要な薬剤;骨粗鬆症治療薬
慢性腎臓病で注意が必要な薬剤;便秘薬
慢性腎臓病で注意が必要な薬剤;抗ウイルス薬
慢性腎臓病で注意が必要な薬剤;抗ヒスタミン薬
薬剤性腎障害はCKD発症・腎障害進行のリスクファクター
薬剤性腎障害は年々増加傾向
薬剤性腎障害の発症様式
腎機能障害をきたしやすい薬剤
電解質異常をきたしやすい薬剤
薬剤性腎障害を疑ったら何をすべきか
薬剤性腎障害をどう予防するか
造影剤腎症(CIN)とは
RAS阻害薬は術前に休薬する
第13章 透析治療
増え続ける透析患者数とその原疾患
透析治療の目的
透析導入の開始基準
透析の原理
ダイアライザーを用いて血液をきれいにする
血液透析患者さんの生活パターン
透析治療で腎臓の機能を100%代償できるか?
ドライウェイトとは
透析で使用する抗凝固薬
不均衡症候群はなぜ起こる?
ブラッドアクセス
内シャント
腹膜透析(CAPD/APD)の方法
腹膜透析のメリットとデメリット
腹膜透析の適応
透析関連アミロイドーシス
様々な血液浄化療法
血漿交換療法
血液吸着療法と血漿吸着療法
第14章 腎臓に関するよもやま話
腎機能はどのくらいの速さで悪化するの?
腎疾患に対する治療のゴールは様々
腎疾患って難病?
腎疾患に関するガイドライン
糖尿病患者で尿蛋白を認めたら、100%糖尿病性腎症なのか?
血圧はどこまで下げればいいの?
腎疾患に対する新規治療薬がなかなか出てこない理由
腎臓病に対する臨床試験が少ないのはなぜ?
ノーベル賞の研究テーマに基づいた新規薬剤
腎臓内科医の守備範囲
問診の重要性
1日食塩摂取量を推定する方法
脱水になるとBUN/Cr比が上昇する理由
腎性貧血があるとHbA1c値は低めに出る
正常範囲内だけど正常を意味しない検査結果とは
腎再生医療はどこまで進んでいる?
出生体重とネフロン数の意外な関係
世界腎臓デー
「腎疾患の診療は専門医でないと無理!」と思っている先生は多くいらっしゃると思います。確かに腎炎の治療や透析医療は専門性が高いです。でも、日常臨床ではどうでしょうか。
慢性腎臓病の患者さんは年々増加して約1330万人、成人の8人に1人に相当します。専門医でなくとも、腎機能が低下している患者さんを診察する機会は多いと思います。薬を処方したり、手術をしたり、様々な医療行為が腎臓に影響します。ですから、どの診療科の医師にも、腎臓のことを気にする機会が常にあるわけです。
腎臓専門外来をしていると、様々な診療科の先生から相談を受けます。
「蛋白尿が出ているので精査をお願いします」
「腎機能が少し低下しています。膝の手術をしても大丈夫でしょうか?」
「低Na血症が続いています。鑑別はどのようにしたら?」
「腎機能が徐々に悪化しています。原因は何でしょうか?」
腎臓は内科だけでなく、外科、産婦人科、小児科、皮膚科、整形外科など、どの分野の診療にも関わる重要な臓器と常々思っており、もっと多くの診療科の先生に腎臓のことを知って頂きたい、との思いで本書を執筆させて頂きました。
医者になってもうすぐ30年になります。自分が研修医の頃と比べると腎疾患の診療内容は大きく変化しました。
まず、新規薬剤がたくさん登場しました。ジェネリックも出てきて名前を覚えるのもひと苦労です。RAS阻害薬の登場は腎疾患診療に大きな影響を与えました。降圧薬として開発され使用されていますが、腎保護効果(抗蛋白尿効果)を併せ持つことが分かっています。糖尿病治療薬としてSGLT2阻害薬が承認されました。単に血糖値を下げるだけでなく、腎臓や心臓に対しても臓器保護効果を有することが大規模臨床試験で示されています。また、腎性貧血に対する新たな治療薬としてHIF-PH阻害薬が登場しました。そのほかにも、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、高尿酸血症治療薬、高カリウム血症治療薬の種類も増えて、治療薬の選択肢が広がっています。
臨床データに基づいたエビデンスを参考にしてガイドラインも複数作成されており、自分が研修医の頃よりも腎疾患の診療レベルは間違いなく向上していると思います。
「高齢化」も忘れてはならないキーワードです。令和3年10月現在、75歳以上の後期高齢者の方は1867万人です(総人口の約15%)。腎臓も老化しますので、高齢者は潜在的な慢性腎臓病患者といっても過言ではありません。腎機能や相互作用の有無を考盧しつつ、薬剤の量の調節を慎重に行う必要があります。
このような日常臨床の進歩や変化を踏まえつつ、本書では下記のポイントを強調して解説しました。
「腎臓は非常に複雑かつ精密な、賢い臓器であること」
「一口に腎炎と言っても、多種多様であること」
「腎疾患は症状もなく、非常にゆっくり慢性的に進行すること」
「全身性疾患が腎臓に影響し、腎臓の不具合が全身に影響すること」
「腎機能低下症例では投与する薬剤に十分注意が必要であること」
検尿異常から、腎炎の診断・治療、腎不全、透析治療に至るまで、腎疾患の診療について説明させて頂きました。誰もが理解しやすいように心がけたつもりですが、それでも多少難しい表現があるかも知れません。その点はご容赦ください。腎疾患診療の大まかなイメージが読者の方々に伝われば幸いです。
本書が医学生や研修医、各診療科の先生にとって少しでも参考になれば嬉しい限りです。
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。